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おっさん、誘われる
しおりを挟む「若いの……良かったら乗っていかんかね」
背後から掛けられた声に俺は街道を歩む足を止め振り返る。
近付いてくるのは察知していたが、そこには荷馬車に乗った老爺がいた。
いかにも人の好さそうな好々爺だ。
おそらく街に村の食材を卸した帰りなのだろう。
無骨だけど頑丈そうなロートル馬が曳く荷台は緩衝材の藁以外空っぽだ。
確かに俺を乗せるスペースは空いている。
街から数時間、少し疲労を覚えてきたところだけに有難い申し出だ。
だが念のために断りを入れておく。
「こっちは助かるが……
いいのかい? 俺の様な根無し草にそんな誘いをして。
もしかしたら野盗なのかもしれないぞ?」
「お前さんが野盗?
はは、それはないわい。
良くも悪くもお人好しのオーラが滲み出ておる。
儂も伊達に長生きしている訳ではないのでな。
こう見えて、人を見る目はあるつもりじゃよ。
それに孫娘がお前さんに近付いても起きない。
この子は悪意に敏感でな。
お前さんが悪党ならすぐに泣き出すところじゃろう」
そう言って老爺が指し示した先には藁に埋もれて熟睡するニット帽を被った幼女が寝ていた。
大好きなお爺ちゃんとのお出掛けで疲れ果てたのか。
よだれを垂らしながら幸せそうに寝ている姿は無邪気そのものだ。
まあ、うららかなこの春先の陽気。
午睡するには最高のシチュエーションだろう。
あいつらの前では気張っていたが俺も歳だ。
たまにはその誘惑に負けてもいいかもしれない。
「じゃあ……お言葉に甘える事にするよ。
俺の名はガリウス。D級の冒険者だ」
「今時珍しい礼儀正しさじゃな。
でもそんな堅苦しい挨拶はよいよい。
ほれ、乗った乗った」
軽い自己紹介と共に階級証を示す俺に老爺は破顔しながらも後ろを指差す。
俺は軽く頭を下げると荷台に乗り込む。
身体を強固に守る硬革鎧の締め付けを緩め、藁の上に横になる。
一応緊急時に備え剣を傍らに腕を組み頭を乗せる。
空は晴れ晴れと澄み渡り気持ち良い風が鼻腔をくすぐる。
警戒を怠らずにそっと目を閉ざすと小動物のように幼女が身を寄せてきた。
どうやら懐かれたみたいだ。
ホンの数時間前まで激動の日々を生き抜いていた事を忘れ、俺は一時の休息に身を委ねる事にした。
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