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九章 三年目なつの月

103 なつの月13日、リアンの恋②

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 まず、イーヴィンは約束通り、『妖精の言葉を理解する薬』を手に入れた。
 そのまま告白をするかと思いきや、初キスに恐れをなした彼女は、なんとシルキーから逃げるようになってしまったのである。

 シルキーの顔を見るだけで、動悸息切れ、気つけに欲情。あらゆる症状が溢れ出して、まともに声を出せなくなる。気づけば彼の唇ばかり注視してしまい、破廉恥だと自分を戒める日々。

 そんな時に、リアンから告白されたのだ。
 彼は、こう言った。

「実はオレ、好きなヤツがいるんだ」

 相手は、イーヴィン、お前なんだーーと続きそうな面持ちだった。
 彼にしては珍しく真剣で、イーヴィンは一瞬、ほんの一瞬だけ誤解して即座にお断りしそうになった。

「驚くなよ?相手は、その……ブラウニー、なんだ」

 正直なところ、イーヴィンは「リアン、お前もか」と思っただけだった。
 もっと言えば、やっぱりねとも思った。釣りをした時から思っていたのだ。リアンはブラウニーが好きなんだろうな、と。

「驚かないよ。だって、私はシルキーが好きなんだもの」

 イーヴィンにマカにリアン。彼女が知らないだけで、妖精に恋をする人間は意外といるのかもしれない。
 それとも、類は友を呼ぶとかそういうやつなのか。

 そんなわけで、イーヴィンは妖精に恋する先輩としてリアンにマカを紹介したわけである。
 意外にも彼女は面倒見が良く、リアンの恋を応援するために例の薬を分けてくれた。
 だが、リアンもイーヴィンもなかなか告白するに至らず、こうしてマカの庵を訪ねては傷を舐め合うようにグダグダとする毎日を送っている、というわけだ。
 失恋どころか告白もまだなくせに、なんの傷を舐め合っているのかは不明である。

 妖精を人間にする薬は、まだ完成していない。
 薬学を極めた魔女の手腕をってしても、すんなり出来るものではないらしい。
 マカの恋が成就すれば告白する勇気も出るかも、とこうして押しかけているのだが、まだまだ先は長そうだ。

「そうこうしているうちに、花の十代が過ぎていきそう」

 年齢はどうあれ、見た目だけなら若く麗しいシルキーに、老いたババァを押し付けるのは可哀想だろう。
 シルキーは良くても、イーヴィンがなんか嫌だ。
 リアンにしたって、ピチピチのうちはまだ良いが、うら若き乙女のように見えるブラウニーに老いたジジィは不似合いである。

(そうよ……あんな可愛らしい妖精さんに、ジジィを押し付けるなんて罪だわ)

 イーヴィンは、覚悟を決めた。
 ゆらりと立ち上がった彼女は、今はまだピチピチな若者であるリアンを、力強く見つめる。否、睨みつけた。

「ねぇ、リアン」

「なんひゃ、イーヒン」

 ムギュムギュとマカに頬を引っ張られながら、リアンが返事をする。

「告白、しよう」

「ひょふはふぅ?」

「そうよ。告白」

「あら、急にどうしたの?」

 リアンの頰を伸ばしながら、マカが「どういう心境の変化かしら?」と漏らした。

「シルキーにババァの私を押し付けるのは忍びないなって。それに……」

 イーヴィンは、シルキーが少しでも寂しくないようにする方法を思いついていた。
 それを実行するには、若くてピチピチしているうちじゃないと間に合わない。
 いつ完成するか分からない薬を待つより、よほど建設的である。

 思いついた名案に、イーヴィンはうんうんと頷いた。
 そして身勝手にも、リアンにこう告げる。

「決行は明後日。もしも出来なかった場合は、罰ゲームだから覚悟しなさい?」

「え、オレも?」

 女主人公であるイーヴィンが頑張るのだ。
 男主人公であるリアンが頑張らないでどうする。
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