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八章 二年目はるの月

97 はるの月11日、シルキーのみる夢①

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 帰る魔女を牧場の入り口で見送って、どちらからともなくイーヴィンとシルキーは自宅に戻った。

 家の中はめちゃくちゃだったが、イーヴィンはすっかり疲れていたのか、まっすぐ自室へ入っていく。
 そんな彼女を見送って、シルキーはむんずと腕まくりをした。
 何をするかなんて決まっている。八つ当たりしてめちゃくちゃにした家の中を片付けるのだ。

 八つ当たりは途中だったせいか、家事に慣れているシルキーの手にかかれば、あっという間に家中は片付いた。
 ついでに朝ごはんの下ごしらえをして、彼はリビングにあるロッキングチェアへ腰を下ろす。
 なんとなく、自室へ戻る気分ではなかった。

 夜は静かだった。
 ロッキングチェアを揺らすと、ギィギィと木が軋む音がする。
 ゆらゆら、ゆらゆら。
 いろいろ考えようかと思っていたのだが、久しぶりに本気を出したせいか眠気が忍び寄ってくる。
 ゆらゆら、ゆらゆら。
 そうしていると、次第に眠くなってきてーーふわっと頰を撫ぜるような柔らかな感触に、シルキーは目を覚ました。

 目を開けたシルキーが最初に見たのは、イーヴィンの顔だった。
 鼻先が触れ合うくらい近い距離からのドアップに、思わず夢かなと思う。
 昨夜、押し倒されるイーヴィンを見たから、自分に置き換えて都合の良い夢をみているのかもしれない。

『そうか、夢か……』

 夢ならば、シルキーのしたいようにしても、問題はないだろう。

 目が合うなり飛び退こうとしたイーヴィンを、肘掛に置いていた左手が逃がさないとばかりに捉える。「ひゃっ」と小さな声を上げる唇に狙いを定めて、シルキーはほんの少し伸び上がった。

 ぎぃ、とロッキングチェアが揺れる。

 準備運動みたいに右手で彼女の顎を捉え、親指で唇をくすぐる。
 目を見張る彼女を見つめたまま、シルキーは唇を押し当てた。
 ふにり、と当たる唇は、ほんのりミントの香りがする。

 夢の中の彼女は、シルキーからのキスを嫌がらなかった。
 それどころか、うっとりと潤んだ目をして、求めるようにシルキーの肩に置いた手でぎゅっと服を握ってくる。
 だからシルキーは嬉しくなって、彼女の唇を何度も何度も啄ばんだ。

「……シルキー」

 これは夢だ。
 そう思っても、浅ましく彼女を求める気持ちは収まらない。
 先を強請るように名前を呟くイーヴィンに、自分だけではないのだからと言い訳して。彼は、食むように唇を深く重ねて、舌を押し込んだ。

 あぁ、気持ちがいい。

 あまりの気持ちよさに、ふわふわとしてくる。
 もしかしたら、眠りから目覚める時間がやってきたのかもしれない。
 まだ足りないと不満に思いながら、シルキーの意識が浮かぶ。
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