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一章 一年目なつの月

06 なつの月10日、牧場主初日①

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「じゃあ、行ってきます!」

 シルキーに見送られ、イーヴィンは家の前に広がる空き地へやって来た。
 しばらく使われることのなかったそこは、もとは畑だったはずだ。なのにそこは、面影もないほどに、荒れていた。

 雑草が生えるだけなら、まだ分かる。イーヴィンが抱えられるくらいの石が転がっているのも、まだ分かる。
 けれど、切り倒さねばいけないような大きな木が生えていたり、運べないほど大きな巨石が転がっているのはどうしてなのか。

「一体、どれくらい放置していたの……?」

 はるの月、なつの月、あきの月、ふゆの月。それぞれ三十日あるから、一年は百二十日ある。
 果樹から実が取れるようになるのが最低でも二ヶ月だから、見上げるほど大きな木になるには一年ほどかかるだろうか。

 しかし、巨石が飛んでくるような大型の嵐があるのはなつの月である。なつの月になってから十日、まだ嵐はきていない。となれば、少なくとも一年以上は放置されていたと推測できた。

「おじ様め……」

 金儲けは上手でも牧場運営はからっきしの叔父を恨めしく思いながら、イーヴィンはシルキーから貰った魔法の農具を道具箱から取り出した。

 兎にも角にも、まずは更地にしなくてはいけない。
 大きな木はオノで切り、木材に。大きな石はハンマーで割って、石材に。あとは保管するか売るかすればいい。
 畑仕事が軌道に乗ったら牧畜を育ててみたいから、とりあえずは保管だろうか。

「あとでシルキーに相談しよう」

 初心者であるイーヴィンが使える魔法の道具は、初心者らしく時間も手間もかかるものである。
 プロの牧場主ともなれば力もあるので、より便利な道具が使える。金のオノは一振りで木をなぎ倒すこともできるが、銅の道具しか扱えない彼女はそうもいかない。

 慣れない道具を握りしめ、イーヴィンは「さぁやるぞ」と勇ましく、畑の真ん中に居座る巨石に突撃して行った。

 ーーガーンガーン!

 ーーゴッゴッゴッ!

 およそ農作業とは思えない音が、寂れた牧場に響き渡る。
 音に気づいた村の人は、「とうとうシルキーが認める牧場主がやってきたか」とお茶を啜りながら微笑んだ。

 そんな日の、昼過ぎのこと。

「うぁぁぁ……」

 晴れ晴れとした雲一つない空の下。

 イーヴィンは持っていた力を使い果たし、ドサリと荒地の真ん中で崩れ落ちた。
 そして、運悪く、力及ばず叩き割ることが出来なかった巨石に頭を強かに打ち付けたのである。

 その瞬間、彼女の脳裏に流れ込んだのは、一人の少女ーー入江ほのかという女の子の二十二年間に及ぶ記憶だった。
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