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終章

94 花舞い散る中で

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特別な相手ヴィリカス用の、レシピ)

 口元についたパイのカケラを、長い舌がベロンと舐め取る。

『ありがとよ』

 ミートパイを最後の最後まで堪能するように、目を閉じて息を吐いたヴィリカスは、のそりと立ち上がるとエディたちから離れ、エマの墓の方へと消えていった。

「おばあちゃんはヴィリカスが大好きだったんだろうなって、気付いたんだ」

「エディは前にも、ヴィリカスへ同じようなことを言っていたな」

「うん。それでね、このミートパイの作り方、おばあちゃんから教わったんだよ。僕には物足りない味なんだけれど、彼は美味しそうに食べていた。最後のひとかけらも残さずに。このミートパイってさ、おばあちゃんがヴィリカスのために作ったんだと思うんだ。ヴィリカスを想って、一生懸命」

 ヴィリカスは理性のある魔獣だ。

 理性のある魔獣は、人に恋をする。

 どうしてヴィリカスが獣人にならなかったのかは、誰にもわからない。

 けれど、ヴィリカスとエマの間には、特別な絆があったのではないかとエディは思うのだ。

(だって、好きという気持ちにもいろいろあるからね)

「そういうの、いいね。僕もいつか、ロキースのために、ロキースを想って、特別なレシピを考えてみたい」

「楽しみにしている」

 蜂蜜色の目を眩しそうに眇めて、ロキースはエディを見つめる。

 幸せだな、とエディは思った。

(こんな時間が、ずっとずっと続きますように)

 エディが願ったその時──

 春の風が、魔の森から魔素を運ぶように吹き込んできた。

 ザァァ、と。紫色の風が、青い花びらを舞い上げる。

 エディに目隠しをするように、激しい風が吹いて──

「すごく強い風だったね、ロキース。あ、頭に花びらがたくさんついてるよ……って、ええぇ⁉︎」

 髪に絡んだ花びらを払い落とそうと手を伸ばして、エディは仰天した。

「え? え? なんで? は? なんで? どうして今?」

 頭に疑問符をいっぱい並べて、くりくりした目を限界まで開いて見つめるその先に、つい今し方までそこにあったはずのものがない。

 丸くて可愛い熊耳が、そこにない。

 伸ばしたままだった手で、熊耳があったところを撫でても、跡形もなかった。

 髪の合間に肌色の、自分と同じ形をした耳を見つけて、エディは「うそぉ」と呟く。

「どうしてだろうな?」

 恥ずかしがる暇も、逃げる隙もなかった。

 頭に乗せていた手を引かれ、エディとロキースの距離が縮まる。

 唇に触れた、柔らかな熱。

 それがロキースの唇だと理解した瞬間、エディはフシュウ湯気を出し、彼の胸に倒れ込んだ。
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みんなの感想(8件)

niboshi
2020.02.27 niboshi

ハッピーエンドの完結お疲れさまでした。
ロキースは余裕LOVEシーンでしたねぇ😁
翻弄されまくりのエディタが初々しいわ、リラックマとリアルクマさんとの間を揺れるロキースが可愛いわ、く~~堪らんわっ👍
訳知りとはいえ、『エディタの作ったミートパイ』を他獣人に食べさせても嫌がらないロキースは大地の様に心が広い。
おばぁちゃん秘話も獣人色々で深かったと思いました。面白かったです。恋する獣人最高っす🎵ありがとうございました。
さぁ、頭からもう1篇再読再読😄

森 湖春
2020.02.27 森 湖春

niboshi様、感想をたくさんくださって、ありがとうございました。

おかげさまで、最後まで書ききることができました!

ロキースは獣人の中でも愛が重いタイプですが、エディタの手前、お利口さんにしているのでしょうね(笑)

落ち着いたら後日談を書きたいと思っているので、また読んで頂けたら嬉しいです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

解除
niboshi
2020.02.22 niboshi

ロキースの頼りがいの有る所が魅力的❗
アクションや陰謀の予感がドキドキしますが『幸せの朝』でのロキースがクマっぽくて笑えました。好きです👊

森 湖春
2020.02.22 森 湖春

niboshi様、感想ありがとうございます!

クマっぽさが出ていて良かったです。

明日、最終話まで更新しますので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

よろしくお願いします!

解除
niboshi
2020.02.18 niboshi

エディタと一緒に途方にくれてしまいそう💧
おばぁちゃん、助けて(/≧◇≦\)
一族はどんな獣人の血脈なのか⁉️ロキースがルタになんて靡く訳が無いわ❗と鼻息荒く思ったのにとんだ隠し玉が有ったとは((( ;゚Д゚)))
がんばれ~‼️

森 湖春
2020.02.19 森 湖春

niboshi様、感想ありがとうございます!

おばあちゃんや一族については今後公開していきますので、お待ち頂けたら幸いです。

ミハウもけっこう頑張るので、お楽しみに!

解除

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