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七章
87 待ち構えていたのは
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翌朝、エディはロキースと共に自宅へ戻った。
無断外泊を二泊もしていた為、彼女を溺愛する弟は怒り心頭で待ち構えているだろうと思っていたのが、予想外にも二人を迎えたのはエディの両親だった。
普段男装しているとはいえ、エディは女の子である。
彼女の両親が心配するのは当然のことだろうと、ロキースは思った。
「ああ、エディタちゃん! 事情はルタさんから聞いているわ。さぞ怖かったでしょうね。でも、もう大丈夫よ。ヴィリニュスの鍵さえあれば、恐ろしい魔獣の手からあなたを解放して貰えるわ」
ロキースと手を繋いで現れたエディを、彼女の母親が奪い取る。
そして、呆然としているロキースからエディを隠すように、彼女の父親が立ちはだかった。
「どうしたの、父さん、母さん。何を言っているの?」
「ルタさんが教えてくれたのよ。あなたが、魔獣に付き纏われているって」
「ああ。そして、マルゴーリスさんが解決策を教えてくれたのだ。魔笛とヴィリニュスの鍵があれば、お前を魔獣から解放することが出来るのだと」
両親の話を聞いて、エディは青ざめた。
ルタは、もう動いていたのだ。
エディが鍵を手に入れることを見越して、両親に偽りを教えていたのである。
「違うよ!」
エディは叫んだ。
両親が言っていることは全くの間違いとも言えない。
見方を変えれば、そのようにも見える。
だがそれは、エディが望む未来ではないのだ。
「父さんも、母さんも、何を言っているの? 僕はロキースに付き纏われているんじゃない。僕が、彼と一緒に居たいんだよ」
エディの言葉は、ルタの言葉を信じている両親に信じてもらうことは出来なかった。
彼らはエディのことを哀れみのこもった目で見つめて、「かわいそうに」と抱きしめる。
「そう、思い込まされているのでしょう? 大丈夫よ。全て、元通りになりますからね」
「さぁ、エディタ。マルゴーリスさんがお待ちだ、行こう」
「嫌だってば! 離してよ! 僕は僕の意思で、ロキースのそばにいるの。思い込みとか、そういうのじゃないから。どうして僕の言葉を信じてくれないの? 実の娘より、義理の娘を信じるなんて、ひどいよ!」
「あ! エディタ!」
エディは両親の手を振り切ると、急いでロキースの元へ駆けた。
何がどうなっているのか見定めるために沈黙していたロキースは、駆け込んできた彼女を大事そうに抱きかかえる。
その目は両親よりも後ろ、ヴィリニュスの屋敷の入り口に向けられていた。
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ロキースと手を繋いで現れたエディを、彼女の母親が奪い取る。
そして、呆然としているロキースからエディを隠すように、彼女の父親が立ちはだかった。
「どうしたの、父さん、母さん。何を言っているの?」
「ルタさんが教えてくれたのよ。あなたが、魔獣に付き纏われているって」
「ああ。そして、マルゴーリスさんが解決策を教えてくれたのだ。魔笛とヴィリニュスの鍵があれば、お前を魔獣から解放することが出来るのだと」
両親の話を聞いて、エディは青ざめた。
ルタは、もう動いていたのだ。
エディが鍵を手に入れることを見越して、両親に偽りを教えていたのである。
「違うよ!」
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だがそれは、エディが望む未来ではないのだ。
「父さんも、母さんも、何を言っているの? 僕はロキースに付き纏われているんじゃない。僕が、彼と一緒に居たいんだよ」
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彼らはエディのことを哀れみのこもった目で見つめて、「かわいそうに」と抱きしめる。
「そう、思い込まされているのでしょう? 大丈夫よ。全て、元通りになりますからね」
「さぁ、エディタ。マルゴーリスさんがお待ちだ、行こう」
「嫌だってば! 離してよ! 僕は僕の意思で、ロキースのそばにいるの。思い込みとか、そういうのじゃないから。どうして僕の言葉を信じてくれないの? 実の娘より、義理の娘を信じるなんて、ひどいよ!」
「あ! エディタ!」
エディは両親の手を振り切ると、急いでロキースの元へ駆けた。
何がどうなっているのか見定めるために沈黙していたロキースは、駆け込んできた彼女を大事そうに抱きかかえる。
その目は両親よりも後ろ、ヴィリニュスの屋敷の入り口に向けられていた。
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