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五章

62 追いかけっこ

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 熊の襲来に恐れをなしたエディは、リディアの手を取って逃げ出した。しかも、よりにもよって魔の森へ。

 これにはリディアも驚いたようで、「ギャァァァ」と叫んだ。

「リディア、お願いだから叫ばないで。場所が特定される……!」

「ムリムリムリ、ムリだから! 私、あんたみたいに弓とか使えないし、あんたより肉付き良いからすぐ食べられちゃう。それなら、大声出してルーシスの助けを待つ方が賢明だもの」

「リディア。僕は今、弓矢を持っていない」

「嘘。じゃあなんで魔の森になんて入ったのよぉぉぉぉ!」

 ギャアギャア騒ぎながらも、リディアはエディの手をしっかり握り返している。

 それは、魔の森が怖すぎて、助けになりそうなのがエディしかいないからだ。

(それでもいい)

 リディアがいてくれるだけで、一人じゃないということが、大事なのだ。

 エディは走った。がむしゃらに。

 何もないところでつまずきそうになるリディアを支える。

 伸びた木の根に足を取られそうになったエディを、リディアが支えた。

 二人は顔を見合わせると、クスクスと笑い合う。

 いつの間にか、この追いかけっこが楽しくなっていた。

 久しぶりに本気で走っているせいか、気分が高揚してきてしまったらしい。

「ねぇ、エディ。昔はよく、こうやって遊んだわね?」

「そうだね、よく遊んだ」

「大人になると、あの頃みたいにずっとずっと走れないのね」

「リディアは、運動不足なだけだろ」

「酷いなぁ。付き合ってあげているのだから、少しくらい話を合わせなさいよ」

 苦しそうに息を弾ませて、それでも二人は走り続ける。

 だけど、体力の差は徐々に距離を縮める。

 突然、木の上から降ってきたルーシスが、リディアに手を伸ばす。

 クン、とルーシスの手に掴まれたリディアの手が、エディの手から離れていった。

「リディア……!」

「あー楽しかった! あなたはまだ走れるのでしょう? 追いかけっこ、楽しんで。私は、ルーシスと休むから」

 早々に戦線離脱したリディアは、ルーシスにお姫様抱っこされながらエディにエールを贈る。

 ヒラヒラと振られる手に振り返す暇もなく、エディは迫る足音に焦燥感を募らせながら、もたつく足を叱咤した。

 リディアに見送られて、エディは走った。

 魔の森の、どの辺りを走っているのかなんて、もう分からない。知っている範囲はとうに過ぎて、見知らぬ場所をひた走る。

 息が苦しい。目の前の景色がかすむ。

 逃げなくちゃと思うのに、足が言うことをきかない。

 ふいに足元の感覚がなくなり、エディはガクリとその場へ膝をついた。

「も、だめ……」

 エディの上半身が、揺れる。そのまま地面に衝突か、と思いきや、そうはならなかった。
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