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四章

50 元獣人の娘、ニューシャ

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「ニューシャ」

 嗜めるようなジョージの声に、ニューシャと呼ばれた少女が首を竦める。

「あ……ごめんなさい。おしごと、よね?」

「そうです。あぁ、でも、そんなに悲しい顔をしないでください。怒っていませんから」

「ほんとう? おじさま、ありがとう。だいすきよ」

 そう言って、少女は伸び上がってジョージの顎にキスをした。途端、ジョージの顔が蕩けるようにデロリとやに下がる。

(うっわ。このお姫様、すごすぎ)

 なんという小悪魔だろう。あのジョージを、手のひらの上で転がしている。

 幼いながら、とんでもない手腕を発揮するニューシャ。エディはこのお姫様のことが気になって仕方がなかった。

 引き気味で見つめられていることに気付いたジョージが、「なにか問題でも?」と言いたそうに冷たい目でエディを睨みつけてくる。

 エディは「なにも問題はありませんですっ」と慌てて目を逸らした。

 戸惑うエディに気付いた少女は、思い出したように「ああ、そうだ」と手を打った。

 ジョージの膝からピョンと飛び降りて、スカートの裾を摘んで一礼する。

 可憐な姫に、エディはポゥッと魅入った。だって、とても可愛かったから。

「わたしのなまえは、ニューシャ。オロバスへんきょうはくのむすめでございます」

 小さいながら、その自己紹介はなかなかにしっかりしている。

 自己紹介をしたら満足したのか、ニューシャは再びジョージの膝へと戻っていった。

(いいところのお嬢さんなのだろうとは思ったけど……辺境伯ってことは、かなり偉いよね?)

 辺境伯は、他国との要所を治める人だったとエディは記憶している。ディンビエにはそんな地位がないから、正確な役割までは分からない。

(やっぱり、元獣人が偉い地位を貰えるっていうのは本当なんだなぁ。やったね、リディア。きみはこれで将来安泰だ)

 自分のことを棚に上げて、エディは幼馴染の未来を祝福した。

 一人訳知り顔で頷くエディと、その隣で彼女を見つめてばっかりいるロキースを、ニューシャは不思議そうな顔で見つめる。

 コテンと首を傾げる姿は非常に愛らしい。顔はわりと平凡なのに、どこか小悪魔っぽい色香が漂っているようないないような。

「ねぇ、どうしてくまさんは、おとなりのおねえさんをおひざにのせていないの? おとうさまは、いつもおかあさまをのせているのに」

「へっ⁉︎」

 ニューシャの言葉に、エディの口から変な声が漏れた。

「くまさんは、おねえさんがすきじゃないの?」
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