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三章

41 好きになっちゃいそう

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(それで、えっと、なんだっけ?)

 ロキースが、エディの頭を撫でた理由。

 それは、一人で頑張るエディを褒めたかったからだった。

(あぁ、そうそう。そうだった)

 弱くちっぽけな少女だったエディは、倒れるほど努力しないと強くなれなかった。

 心無い村人の一言に、言い返すことさえ出来ない女の子のままではいたくなかったから、必死に頑張った。

 おばあちゃんがいないから。その代わりに。

 周囲にはそう言っていたけれど、本当はそんな自分を変えたかっただけだ。手っ取り早い方法が、男装だったというだけ。

 だから、誰かに褒められたいとか、そういう気持ちはなかったはずだった。

(なのに、どうして──?)

 どうして、こんなに嬉しいのか。

 誰にも知られないようにしてきた、エディの中では恥ずかしい歴史なのに、嬉しくてたまらない。

 勝手に赤らむ頬を隠したくて、エディは持っていたクッキーを口に詰め込むと、ソファの上で膝を抱えて、顔をうずめた。

(あぁ、もう。本当に困る。この人はどうして、人の弱いところを付け入ってくるのだろう)

「好きになっちゃいそうじゃないか……」

 困り果てて思わずポロリと呟けば、「え⁉︎」と声が返される。

 そろりと視線を上げてみると、ロキースが期待に満ちた目でチラチラと見ていた。

 その姿に、恐ろしい熊という印象は全くない。相変わらず、メルヘンなイメージのクマさんである。

(あぁ、くそぅ。かわいいじゃないか)

 彼の腕の中で、クッションがグンニャリと歪んでいる。

 エディのことは、あんなに恐々抱きしめていたというのに。

「ふはっ。ロキース、なんて顔しているのさ?」

 せっかくの美形が台無し、とまではいかないが、少々残念な感じにはなっている。

 エディはクスクスと笑いながら、抱えていた膝を元に戻した。

「僕はさ、前は小さくて弱くて、守られるような女の子だった。大好きなおばあちゃんが馬鹿にされても、言い返せないような子だったんだ。僕はそれが嫌で、自分が許せないと思った。だから、大嫌いだった弓の稽古も必死でやったし、今までの自分を捨てるように女の子らしくするのもやめた。まさか、ロキースに見られているとは知らなかったから、驚いたよ。でも、なんだろうな……初めて頭を撫でられた時、心がホワホワしたんだ。それって、たぶん、ロキースの気持ちが、手から伝わったんだろうなって、今は思うよ。だから……ありがとうね?」
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