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三章
39 頭を撫でた意味
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エディの言葉に、ロキースは静かにティーカップをテーブルへ置いた。
それから何かを思い出すかのように、自身の手のひらをじっと見つめる。
「そうだな……あれは、労いの気持ちからだった。いや、労いとも違うか……。すまない、どういう言葉が妥当なのか、思いつかない。だが俺は、エディはよく頑張っていると、褒めてあげたかった」
二人きりの部屋で、ロキースの低い声が訥々と話す。
飾り気のない言葉は、エディの心に一つ、二つと降り積もっていく。
「エディが頑張ってきたのを、俺は見てきた。俺は魔獣だったから、全部を見られたわけじゃない。けれど、弓の練習をするきみは、誰よりも見てきたよ。弓を支える親指の付け根に肉刺をつくって、それが破れても諦めず。弓の弦が腕を叩いて痣をたくさんつくっても、諦めず。でも俺は、そんなきみを見て、どんなに痛いだろう、もうやめればいいのに、と思っていた。だって、大好きなきみが傷つく姿は、見ていて気持ちが良いものじゃなかったから。いっそ、獣人になってきみを守ろうかとも思った。だけど、少しずつ弓の腕前が上達していって、魔獣のあしらい方もどんどん上手くなっていって……トルトルニアのみんなを守れるようになったきみが誇らしげにしていると、俺まで嬉しくなった。そんなエディだから、俺は恋をし続けているのだろう」
親指の肉刺も、腕の痣も、エディは誰にも言っていない。それどころか、必死になって隠していた。
弓の稽古をしている姿さえ誰にも見せないように、人が来ない、魔の森に近いところでやっていたのだ。
(たぶん、ロキースはそれを見ていたんだろうな)
あの頃はリディアさえも突き放して、毎日毎日弓の稽古ばかりしていた。淑女になるために必要な時間を、全て放り出して。
トルトルニアを守る森守になろうと、その一心だった。
「誰にでも出来ることじゃない。ただ見ていただけの俺が褒めたって、どうということはないだろうけれど。それでも俺は、きみを褒めてあげたかった。頑張ったな、偉いなって、褒めてあげたかったんだ」
ロキースの喋り方は、ゆっくりとしている。声色は違うはずなのに、喋るテンポが似ているせいなのか、祖母エマが喋っているような錯覚を覚える。
エディはふっと吐息を漏らした。
それからスンッと鼻を鳴らす。
鼻の奥がツンと痛んでいた。
目から何かが溢れ出しそうになって、我慢するように唇を引き結ぶ。
ロキースは、そんなエディを抱きしめたくて堪らなくなった。
どうしてこの子はこんなにも我慢し続けるのか。泣いてしまえばいいのに、と思う。
それから何かを思い出すかのように、自身の手のひらをじっと見つめる。
「そうだな……あれは、労いの気持ちからだった。いや、労いとも違うか……。すまない、どういう言葉が妥当なのか、思いつかない。だが俺は、エディはよく頑張っていると、褒めてあげたかった」
二人きりの部屋で、ロキースの低い声が訥々と話す。
飾り気のない言葉は、エディの心に一つ、二つと降り積もっていく。
「エディが頑張ってきたのを、俺は見てきた。俺は魔獣だったから、全部を見られたわけじゃない。けれど、弓の練習をするきみは、誰よりも見てきたよ。弓を支える親指の付け根に肉刺をつくって、それが破れても諦めず。弓の弦が腕を叩いて痣をたくさんつくっても、諦めず。でも俺は、そんなきみを見て、どんなに痛いだろう、もうやめればいいのに、と思っていた。だって、大好きなきみが傷つく姿は、見ていて気持ちが良いものじゃなかったから。いっそ、獣人になってきみを守ろうかとも思った。だけど、少しずつ弓の腕前が上達していって、魔獣のあしらい方もどんどん上手くなっていって……トルトルニアのみんなを守れるようになったきみが誇らしげにしていると、俺まで嬉しくなった。そんなエディだから、俺は恋をし続けているのだろう」
親指の肉刺も、腕の痣も、エディは誰にも言っていない。それどころか、必死になって隠していた。
弓の稽古をしている姿さえ誰にも見せないように、人が来ない、魔の森に近いところでやっていたのだ。
(たぶん、ロキースはそれを見ていたんだろうな)
あの頃はリディアさえも突き放して、毎日毎日弓の稽古ばかりしていた。淑女になるために必要な時間を、全て放り出して。
トルトルニアを守る森守になろうと、その一心だった。
「誰にでも出来ることじゃない。ただ見ていただけの俺が褒めたって、どうということはないだろうけれど。それでも俺は、きみを褒めてあげたかった。頑張ったな、偉いなって、褒めてあげたかったんだ」
ロキースの喋り方は、ゆっくりとしている。声色は違うはずなのに、喋るテンポが似ているせいなのか、祖母エマが喋っているような錯覚を覚える。
エディはふっと吐息を漏らした。
それからスンッと鼻を鳴らす。
鼻の奥がツンと痛んでいた。
目から何かが溢れ出しそうになって、我慢するように唇を引き結ぶ。
ロキースは、そんなエディを抱きしめたくて堪らなくなった。
どうしてこの子はこんなにも我慢し続けるのか。泣いてしまえばいいのに、と思う。
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