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三章
37 かわいいがいっぱい
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絞り出された生地の真ん中にジャムがのったクッキーは、まるで花のようだ。
差し出されたミルクティーを受け取りながら、テーブルに置かれた皿に並ぶ綺麗なクッキーに、エディは無意識に「かわいい」と呟いていた。
自然に出た呟きは、本来の彼女らしい柔らかな音をしている。
耳をくすぐる可愛らしい声に、ロキースの獣耳がピョコピョコ揺れた。
「気に入ってくれたのなら、良かった。ロスティの菓子屋で買ったのだが、多すぎて選ぶのが大変だったから」
そう言って恥ずかしそうに鼻を掻くロキースに、エディの口から再び「かわいい」と漏れた。
言わずもがな、クッキーの感想ではなくロキースに対してである。
もしもこの場にミハウが居たならば、「エディタ、目は大丈夫か?」と眼科医を紹介したことだろう。聡いジョージが居たならば、「良いぞ、もっとやれ」と生温かく見守っていたに違いない。
確かに、垂れ気味の蜂蜜色をした目は可愛いと言えなくもない。
だが、それ以外のどこが可愛いというのか。
一般的にはカッコイイ、もしくは美しいが妥当である。
それでもエディが彼のことを可愛いと思ってしまうのは、彼が熊だからだ。
今現在、彼女の頭の中では籠を持ったヌイグルミのような子グマが、たくさんのお菓子の前でウンウン頭を悩ませている。そんな健気なクマさんを助けてあげたいと、エディは胸をキュンキュンさせていた。
「ロスティのお菓子屋さんには、そんなにたくさんのお菓子が置いてあるんだ?」
「ああ。気に入ったのなら、また、買ってくる」
「ふふ。今度は違うものだと嬉しい」
「そうか」
そう言って、ロキースは花が咲くように笑った。
エディは、眩しいものでも見たように目を細める。あまりに綺麗過ぎて、目がシパシパしそうだ。
可愛らしい子グマの妄想の後に、キラキラの笑顔を向けられる。
そのギャップに、エディの胸は騒々しく騒ぎ立てた。
(可愛い上に綺麗とか、どうなっているんだ⁈)
訳がわからない。
見続けているのも辛くなって、エディは誤魔化すようにクッキーへ手を伸ばした。
口に運んだクッキーは、思っていた以上に軽い食感だった。ホロホロとあっという間に口の中で溶けてしまう。
トルトルニアにもクッキーはあるが、かたいものばかりだ。ミルクに浸して食べるのが、エディのお気に入りではあるのだけれど。
指先についていた甘いイチゴジャムをペロリと舐めとって、エディは頬を緩ませた。
「ん……美味しいね、これ」
その時、ゴキュリとおかしな音がして、エディは首を傾げた。
一体何だと見回しても、当たり前だがエディとロキースしかいない。
じゃあロキースが何かしたのかと彼を見ても、いぶかしげな顔をして、背後の窓を振り向いている。
もちろん、外には何もない。
まさか、エディの不意打ちのような色っぽい仕草に発情した熊が、生唾を呑み込んでいたなんて思いもしない彼女は、おかしいなぁと言いつつ二枚目のクッキーに手を伸ばした。
差し出されたミルクティーを受け取りながら、テーブルに置かれた皿に並ぶ綺麗なクッキーに、エディは無意識に「かわいい」と呟いていた。
自然に出た呟きは、本来の彼女らしい柔らかな音をしている。
耳をくすぐる可愛らしい声に、ロキースの獣耳がピョコピョコ揺れた。
「気に入ってくれたのなら、良かった。ロスティの菓子屋で買ったのだが、多すぎて選ぶのが大変だったから」
そう言って恥ずかしそうに鼻を掻くロキースに、エディの口から再び「かわいい」と漏れた。
言わずもがな、クッキーの感想ではなくロキースに対してである。
もしもこの場にミハウが居たならば、「エディタ、目は大丈夫か?」と眼科医を紹介したことだろう。聡いジョージが居たならば、「良いぞ、もっとやれ」と生温かく見守っていたに違いない。
確かに、垂れ気味の蜂蜜色をした目は可愛いと言えなくもない。
だが、それ以外のどこが可愛いというのか。
一般的にはカッコイイ、もしくは美しいが妥当である。
それでもエディが彼のことを可愛いと思ってしまうのは、彼が熊だからだ。
今現在、彼女の頭の中では籠を持ったヌイグルミのような子グマが、たくさんのお菓子の前でウンウン頭を悩ませている。そんな健気なクマさんを助けてあげたいと、エディは胸をキュンキュンさせていた。
「ロスティのお菓子屋さんには、そんなにたくさんのお菓子が置いてあるんだ?」
「ああ。気に入ったのなら、また、買ってくる」
「ふふ。今度は違うものだと嬉しい」
「そうか」
そう言って、ロキースは花が咲くように笑った。
エディは、眩しいものでも見たように目を細める。あまりに綺麗過ぎて、目がシパシパしそうだ。
可愛らしい子グマの妄想の後に、キラキラの笑顔を向けられる。
そのギャップに、エディの胸は騒々しく騒ぎ立てた。
(可愛い上に綺麗とか、どうなっているんだ⁈)
訳がわからない。
見続けているのも辛くなって、エディは誤魔化すようにクッキーへ手を伸ばした。
口に運んだクッキーは、思っていた以上に軽い食感だった。ホロホロとあっという間に口の中で溶けてしまう。
トルトルニアにもクッキーはあるが、かたいものばかりだ。ミルクに浸して食べるのが、エディのお気に入りではあるのだけれど。
指先についていた甘いイチゴジャムをペロリと舐めとって、エディは頬を緩ませた。
「ん……美味しいね、これ」
その時、ゴキュリとおかしな音がして、エディは首を傾げた。
一体何だと見回しても、当たり前だがエディとロキースしかいない。
じゃあロキースが何かしたのかと彼を見ても、いぶかしげな顔をして、背後の窓を振り向いている。
もちろん、外には何もない。
まさか、エディの不意打ちのような色っぽい仕草に発情した熊が、生唾を呑み込んでいたなんて思いもしない彼女は、おかしいなぁと言いつつ二枚目のクッキーに手を伸ばした。
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