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二章

25 その笑みは花のように

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「こんにちは、エディ」

 深みのある美声で、ロキースはディンビエらしい挨拶をしてきた。

 いつものように日当たりの良い屋根の上で欠伸をしていたエディは、吐き出していた途中の呼気をごくんと飲み込む。

「え……ロキース、さん?」

 慌てて起き上がって階下を見れば、ハニーブラウンの髪が秋風に揺られてフヨフヨしている。

 チェック柄のおしゃれな帽子は耳を隠すためだろうか。なかなか似合っていた。

「ロキース、で良い」

 そう言うと、ロキースはあるかなしかの笑みを浮かべた。微笑と言うには、あまりにもささやかな笑み。

 だが、エディの目には、それが大人特有の渋みのある色気のように見えて、胸が勝手にドキドキと脈打った。

(……って! 勝手にドキドキするなよ、僕の心臓!)

 恥ずかしいな、とエディは唇を尖らせた。

 本当に、困る。

 エディには、これと決めた使命があるのだ。

(おばあちゃんが見つかるまでは、恋なんてしている暇なんてない……はず、だよね?)

 とはいえ、エディのために獣人になった魔獣さんは、そんなことお構いなしに彼女の心をグイグイ揺らしてくる。

 今だって、名前を呼んで欲しそうに、甘く乞うような、期待に満ちた目で見上げてきていた。

 エディは「あぁ、もう」と口の中で呟いて、やけくそみたいに「ロキース」と彼の名前を呼んだ。

 名前をただ、呼び捨てで呼んだだけ。

 それだけなのに、ロキースの無表情に近い顔がとろりとほころぶ。

(ななななな!)

 花が咲く、とは女性の笑みに向けて使う言葉かもしれない。

 けれど、エディのそう多くない語彙ではそうとしか言いようがなかった。

(き、綺麗過ぎる!)

 さすが人外、とエディは心の中で賞賛した。

 果たしてそれが褒め言葉なのか怪しいところだが、本当に、人とは思えない美しさなのだ。

 人はそれを欲目と言うのだが、エディはまだ分かっていない。

(ぐぬぅぅ! これは、反則っ)

 ロキースからしてみれば、エディの気持ち次第で生きるも死ぬも決まるのだ。彼女がどんなに恋を遠ざけようと、気持ちを揺さぶらなくては始まらない。

 ジョージはロキースへ言った。好きか嫌いかよりも、まずは関心を持ってもらうことが大事だと。

 たとえ最初が嫌いだとしても、無関心よりはずっとマシである、とも言っていた。

 少なくとも、ロキースの目には、エディが無関心であるようには見えなかった。

 ぼんやりしているように見えるが、ロキースはわりとエディのことだけはよく見ている。正直、エディのことしか見ていないと言っても過言ではない。辛うじて、助言をくれるジョージのことは、見ていなくもないという程度である。
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