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一章

15 熊の獣人、ロキース

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「しかし、その代わりと言ってはなんですが、あなたにご紹介したい人がいます」

「……はい?」

(眼鏡が光ったような気がしたけれど、気のせいかな……?)

 エディは、ジョージの言葉に首を傾げた。

 そうすると、そうでなくとも幼い顔立ちのせいで余計に子供っぽくなる。

 ジョージは、少し心配になった。

 十五歳には見えない幼さを持つ彼女が、果たしてこの話を受け入れることが出来るのだろうか、と。

 けれど、事はすでに始まってしまったのである。

 ジョージが出来るのは、手助けをすることだけ。

 覚悟を決めるように、ジョージは眼鏡を押し上げた。

「あなたに恋をした魔獣がいます。名前は、ロキース」

「ロキース」

 その名前を聞いて、エディは変な名前だと思った。

 ロキでもなく、キースでもなく、ロキースなんて、なんか変。

 そして、呼びづらいなとも思った。

「えっと、念のために聞きますけど。その獣人さんは、僕を男だと思っているのですか? それとも、女?」

 男だと思っていたら、申し訳ないことこの上ない。

 エディがどんなに頑張ったところで、その恋が叶うことはないのだ。

(だって、僕は女だから)

 エディは、忘れてしまったのだろうか。

 魔獣は、恋した相手の好みに合わせた容姿をとる。

 それは、性別も含まれるのだ。

 魔獣は、エディが女であろうと男であろうと気にしない。

 求めるのはただ一つ。

 恋した相手を幸せにしたい。出来れば、自分の力で。

 ただ、それだけなのである。

 魔獣の恋は、盲目的なのだ。

 エディの質問に、「さぁ、どうなのでしょう?」とジョージは言った。

 その視線は、背後の熊の獣人へと向けられている。

(え……まさか、その熊の獣人さんが、僕の相手なの⁈)

 エディの驚いたような顔を見て、熊の獣人はしゃがみ込んでソファの後ろへ隠れてしまった。

 ソファの裏からは、ボソボソと「怖がらせてごめん……」と聞こえてくる。

 大きな体に似合わず、随分と小心者らしい。

 ジョージが呆れたような顔をして、ソファの裏を覗いている。

「ロキース。少しは格好良くしないと、嫌われてしまうかもしれないぞ?」

「そっ、それは困る!」

 ロキースと呼ばれた熊の獣人は、慌てて立ち上がった。それから、ゆっくりとソファの後ろから出て来る。

 熊が怖いと言った後だからか、丸い耳は怯えたように伏せられていた。

「あの、ごめんね? 熊が怖いとか言っちゃったから、そんな風になっているのでしょう? あなたのことは怖いと思っていないから、怯えないでくれると、嬉しい」

 エディが怖がらせないように出来る限り優しく微笑んでみせると、ロキースは酒に酔ったようにトロリと目を潤ませた。

 フワフワと引き寄せられるようにエディのそばへ歩いていくと、まるで姫に忠誠を誓う騎士のように跪く。

 近づいた視線に、エディの心臓がドキリと脈打つ。

 だって、まるでお伽噺みたいだったから。

 お姫様に憧れているわけではないはずだったけれど、実際にされるとときめかないわけがない。

 近くで見たロキースの目は、蜂蜜みたいな淡い黄色にほんの少し緑を混ぜたような色をしていた。

(不思議な色……)

 ずっと見ていると吸い込まれそうなくらい、ロキースの目は綺麗だ。

 まじまじと見つめ返すエディに、ロキースも真摯に見つめ返す。
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