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一章

14 犠牲になったトレー

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「こちらも色々と不手際があったようです」

 夢中になって、熊の獣人を観察していたらしい。

 ジョージの声に、エディは慌ててティーカップをテーブルへ置いた。

「リディアさんに関する調査や、事前の説明不足。それにより、彼女はあなたに恋人のふりをするよう頼むに至った……と。今回、リディアさんがディンビエの方ということでディンビエ側にお任せしたのが悪かったようです。申し訳ない」

 そう言うと、ジョージは立ち上がり、深々と頭を下げた。

 年上の男性に誠心誠意謝罪されたことがなかったエディは、ジョージの態度に慌てふためく。

「あの……分かって貰えれば、大丈夫なので! その……出来れば、処罰とかは無しにしてくれたら嬉しいなって。だって、ほら、ルーシスさんもリディアも、今日は朝からデートだって言っていたし、なんかうまくいきそうだから! だから、その……お願いします。もし無理だったら、リディアのかわりに、僕が罰を受けます」

 ガバリと勢いよく、エディは頭を下げた。

 ジョージはエディの訴えに驚いたようだ。急いで上げたその顔には、そんなことは考えてもいなかったと書いてある。

 それまでズーンと沈んでいた熊の獣人も、どうしていいのか分からないといった顔で、トレーを持った手を上げ下げしていた。

「顔を上げてください。ロスティとしても、あなたを処罰するつもりなんて微塵もない。リディアさんも然りです」

「本当ですか⁉︎ 良かったぁ……」

 エディはパッと顔を上げた。

 安堵した緩んだ笑みを浮かべたその顔は、少年というより少女のような柔らかさがある。

 ああ、この子は女の子なのだ。

 ジョージはその笑顔を見て、唐突に理解した。

 斜め後ろで、バキィと恐ろしげな音が聞こえたが、彼は聞かなかったことにした。

 少女の笑み一つで高価なトレーが一枚犠牲になるくらい、なんだというのか。

 これでロスティ国の戦力が一つ増えると考えれば、安いものである。

 それでも、トレーの価格を考えればそのまま放っておくのも微妙なところで、ジョージはチラリと鋭い視線を熊の獣人へと向けた。

 彼の視線に、熊の獣人は慌ててペコペコと頭を下げる。

 基本的に、熊の獣人は穏やかなのである。

 力が強すぎるだけで、根は優しい。

 但し、例外はあるのだけれど。
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