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序章

09 お伽噺のようなはなし

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「やけに断言されますが、何か根拠でもあるのですか?」

「……」

 ジョージは一瞬、苦虫を噛んだような顔をして、それから誤魔化すように笑った。

 一瞬の間でしかなかったが、何かあるのは一目瞭然である。それも、あまり良い意味ではないはずだ。

「私の幼馴染は、獣人から人になった夫にひどく可愛がられて、幸せそうな顔を晒していますよ」

 可愛がられて幸せそうな顔をいる。

 なんて、棘のある言い方だろう。

 エディはその真意を探るように眼鏡の奥を見つめたが、彼の目からは何も読み取ることは出来なかった。

(もしかしたら、彼は獣人と幼馴染を取り合ったのかもしれない。もしくは、無理やりに奪い取られたか)

 生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。

 獣人だって、構っていられないだろう。

(まさに今、多大なる誤解から僕が敵視されている状況なわけだけど)

 助けを求めるようにリディアを見ても、鋭い牙を剥き出しにして威嚇してくる、怖い山猫男が睨み返してくるだけだ。エディ恋人作戦の言い出しっぺである彼女は、目の前の美形山猫に夢中で話にならない。

「恋人である君には失礼なことかもしれない。だが、彼……ルーシスにもチャンスを貰えないだろうか? 彼は、リディアさんに恋をして、命をかけてここにいる。それは、生半可な覚悟ではないのだ」

 ジョージの演説に、エディは「でしょうね」としか言えなかった。

 だって、あまりにも荒唐無稽すぎる。

 いっそ、この二人は美形に弱いリディアを騙すためにやって来た詐欺師なのではないかと、疑いを持つ方が簡単だ。彼女を騙す理由なんて、見つからないけれど。

 まるで、お伽噺のようだ。

 人に恋をした魔獣が、恋を実らせるために獣人になるなんて。

 その上、恋が実らなければ消滅する、なんてオチまでついている。

(命がけの恋って……僕が本当にリディアの恋人だったら、チャンスなんてあげたくないと言うと思うよ。だって、リディアはそういうお涙ちょうだいモノが大好きなんだから)

 案の定、エディの偽りの恋人は目を潤ませて切なげにルーシスを見上げている。

(ほら、感極まっている……)

 一体いつまで、恋人のふり茶番を続ければ良いのだろうか。

 リディアの許しなく暴露することは後々ネチネチ言われそうだし、ロスティを騙したことによる処罰も怖すぎる。

(早く終わってくれ~~)

 延々と続くジョージの説得が無駄であると言い出すことも出来ず、最終的には渋々獣人にチャンスを与える優しい少年を演じて、この一件に幕を下ろしたのだった。
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