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七章 シュエット・ミリーレデルの試練
96 お礼にかこつけて③
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「は……?」
エリオットの口から、間抜けな声が漏れ出る。
かと思えば、トロンとしていた目が急に大きく見開かれて、ガバリとテーブルから身を起こした。
「シュエット⁈」
動揺を隠せない様子のエリオットに、「まぁそうよね」とシュエットは呟いた。
一応、予想の範囲内ではある。シュエットが触れる時、彼はいつも挙動不審だからだ。
「膝枕。テーブルよりは、やわらかいと思うのよね」
正直言って、恥ずかしい。
こんなことを言って、エリオットはどう思うだろう。
嬉しい?
嫌?
それとも、破廉恥だと蔑むだろうか。
「やわらかいって……いや、しかし……」
「やわらかい枕は嫌? テーブルの方が寝心地が良いっていうなら、それでも──」
それでも良いけど、と最後まで言えなかった。
シュエットの言葉に被せるように、エリオットが言ったのだ。
「シュエットの方が良いに決まっている!」
自分で良いと言ったくせに、エリオットはシュエットと視線が合うなり「っぐ」と息を飲んだ。
もしかしたら、恥ずかしいのかもしれない。シュエットだって、エリオットに「膝枕をしてあげる」と言われたら、恥ずかしい。
(でも、興味はあるから、してもらいたい、な……)
「じゃあ、どうぞ?」
できるだけなんでもない風を装って、シュエットは膝枕を勧める。
そんな彼女にエリオットは何か言おうとして、でも何も言えずにおとなしく頭を預けた。
シュエットは気づかない。
エリオットを見る彼女の目は、砂糖を煮詰めた蜜のように、甘くて優しい色を滲ませていた。
どんな阿呆だってわかる。
シュエットがエリオットを、どう思っているかなんて。
だからエリオットは、勢いのままに気持ちを、そして隠しているすべてを吐露しそうになった。
視界の端でピピが両手でバッテンをつくっていなかったら、言っていたかもしれない。
「準備が整うまで、あと少し……」
「エリオット? 何か言った?」
「いや、なんでもないよ」
そんな二人をピピはほんのつかの間見守って、静かに部屋を出て行く。
「歴代一位の面倒臭さじゃ。しかし、だからこそ、かわいらしゅうてたまらぬ」
手のかかる公爵様の恋を成就させるには、やらねばならないことがいっぱいある。
幼女姿からモリフクロウの姿へ戻ったピピは、夜の空を見上げて翼を広げた。
エリオットの口から、間抜けな声が漏れ出る。
かと思えば、トロンとしていた目が急に大きく見開かれて、ガバリとテーブルから身を起こした。
「シュエット⁈」
動揺を隠せない様子のエリオットに、「まぁそうよね」とシュエットは呟いた。
一応、予想の範囲内ではある。シュエットが触れる時、彼はいつも挙動不審だからだ。
「膝枕。テーブルよりは、やわらかいと思うのよね」
正直言って、恥ずかしい。
こんなことを言って、エリオットはどう思うだろう。
嬉しい?
嫌?
それとも、破廉恥だと蔑むだろうか。
「やわらかいって……いや、しかし……」
「やわらかい枕は嫌? テーブルの方が寝心地が良いっていうなら、それでも──」
それでも良いけど、と最後まで言えなかった。
シュエットの言葉に被せるように、エリオットが言ったのだ。
「シュエットの方が良いに決まっている!」
自分で良いと言ったくせに、エリオットはシュエットと視線が合うなり「っぐ」と息を飲んだ。
もしかしたら、恥ずかしいのかもしれない。シュエットだって、エリオットに「膝枕をしてあげる」と言われたら、恥ずかしい。
(でも、興味はあるから、してもらいたい、な……)
「じゃあ、どうぞ?」
できるだけなんでもない風を装って、シュエットは膝枕を勧める。
そんな彼女にエリオットは何か言おうとして、でも何も言えずにおとなしく頭を預けた。
シュエットは気づかない。
エリオットを見る彼女の目は、砂糖を煮詰めた蜜のように、甘くて優しい色を滲ませていた。
どんな阿呆だってわかる。
シュエットがエリオットを、どう思っているかなんて。
だからエリオットは、勢いのままに気持ちを、そして隠しているすべてを吐露しそうになった。
視界の端でピピが両手でバッテンをつくっていなかったら、言っていたかもしれない。
「準備が整うまで、あと少し……」
「エリオット? 何か言った?」
「いや、なんでもないよ」
そんな二人をピピはほんのつかの間見守って、静かに部屋を出て行く。
「歴代一位の面倒臭さじゃ。しかし、だからこそ、かわいらしゅうてたまらぬ」
手のかかる公爵様の恋を成就させるには、やらねばならないことがいっぱいある。
幼女姿からモリフクロウの姿へ戻ったピピは、夜の空を見上げて翼を広げた。
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