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五章 シュエット・ミリーレデルの悩み

63 快適すぎて絆されていく日々②

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 家事が得意と言うだけあって、エリオットの仕事は素晴らしい。シュエットの期待以上のことをしてくれている。

 正直言って、実家で働くメイドたちよりも仕事が丁寧だ。

 本業ではないはずなのに、どうしてここまで、とシュエットは驚くばかりである。

 もういっそ、エリオットがお嫁に来てくれないかな、なんて思う始末で、フクロウ百貨店の売り上げを見ては、「到底無理ね」と諦めていた。

 ミリーレデルのフクロウ百貨店は、相変わらず閑古鳥かんこどりが鳴いている。

 ペルッシュ横丁の通りはいつも観光客で賑わっているのに、フクロウ百貨店は今日も静かなものだ。

 いつも通り、常連客が愛鳥のご飯エサを買いに来る程度で、フクロウを新しい家族に迎えようとする人は現れない。

「どうやったら、あの子たちに家族を見つけてあげられるのかしら……?」

 このまま待っているだけでは、どうにもならないとわかっている。

 店を任されて二年。その間に新しい家族を見つけてあげられたフクロウは、数えるほどだ。

「コルモロン様はまだお悩みのようだし……」

 週に一度は来店してくれるコルモロンだが、今週はレディ・エルのご飯を買うだけだった。

 来店するなりシロフクロウのもとへ飛んでいったレディ・エルに、コルモロンは「仕方のない子だねぇ」と苦笑いを浮かべていた。

 その顔と、父が自分へ向ける顔が被って見えて、思わずシュエットも苦笑いで返す。

「すまないね。あのシロフクロウのことが、とても気になっているようで……先週からずっと、落ち着きがなかったのだ」

 主人に似て落ち着いた雰囲気の、貴婦人のようなレディ・エル。いつだって主人の肩にとまって堂々とした姿を見せていたのに、恋した彼女はすっかりシロフクロウに夢中だ。

「ご飯がなくなれば、店に行くことを知っているからね。盗み食いして早く減らそうとしているのを見て、驚いた」

 娘の失態を母に報告する時の父のように、コルモロンは小声で告げてきた。

「まぁ。そうなのですか?」

 まさか、あのレディ・エルが? と、信じられないような気持ちでシロフクロウの方を見てみると、ふわりと舞い降りたレディ・エルのために場所を空けているところだった。

 どうやらシロフクロウも、待っていたらしい。

「シロフクロウも、レディ・エルを待っていたようだ」

「そのようですね」

 仲睦まじげに止まり木へとまる二羽に、シュエットは嬉しくなった。

 コルモロンはいつも通り「いつものでよろしく頼む」と注文した。

 シュエットが「かしこまりました」と席を外すと、彼はゆったりとした足取りでシロフクロウのもとへ歩いていく。

(今日こそ、シロフクロウの家族になってくれるかしら……?)

 こっそり後ろから「おねがいします」と手を合わせて祈りつつ、シュエットはレディ・エルのためのご飯を梱包こんぽうした。
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