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四章 シュエット・ミリーレデルの新生活
50 試練〜握手〜④
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「あの、エリオット? もしかして、なんですけど。誰かと手を握るのも慣れていない、とか?」
「……実は、そう、なんだ」
ボソボソと自信なさげに呟くエリオットに、ピピが「軟弱者がぁっ」と喝を入れている。
「だって、仕方がないだろう。学生時代は友だちもいなかったし、魔導書院に行ってからはもっと人と関わらなくなったんだ。僕が今、関わっているのなんて、兄上とメナートくらいなのだぞ? そんな状態で、どうやって人付き合いをしろって言うんだ」
ピピに耳たぶを引っ張られながら、エリオットは涙目でそう訴えた。
シュエットは、エリオットをかわいそうに思った。
握手一つまともにできないくらい、彼は友だちに恵まれていなかったらしい。
(この美貌で、この年齢で、まだ結婚できていないのはそのせいね)
実は、エリオットが独身なのかどうか、シュエットは怪しんでいた。
だって、彼の顔は本当に、信じられないくらい綺麗だ。ちょっと猫背気味ではあるけれど、背も高いし、太ってもいない。
こんな男が社交界にいて、貴族の目の肥えたご令嬢たちが放っておくわけがない。
だが、握手さえまともにできない男なら、どうだろう。
どんなに見目がよろしくても、触れ合うことさえままならない男を、令嬢たちが相手にするわけがない。
(もったいない)
本当に、もったいない。
こんなに綺麗ですてきなのに、どうして結婚できないのだろう。
(こうなったら……)
シュエットの姉魂に火がついた。
私が、どうにかしてあげないと。
持ち前の世話好きを発揮した彼女は、エリオットを安心させるように穏やかに微笑みかけた。
「大丈夫よ、エリオット。私、じっとしているから。それに……第一の試練をさっさと終わらせないと、買い物にも行けないわ。だって、あなたはここで暮らすのでしょう? 買い揃えないといけないものが、たくさんあるわ」
そう言えば、エリオットの目にわずかながらのやる気が戻ってきたようだった。
引っ込めていた手を服でゴシゴシと乱雑に拭って、エリオットはおずおずと、まるで初めて見る生き物を触るかのように、ゆっくりそろりと触れてくる。
触れるか触れないかの触れ合いは、こそばゆい。
くすぐったさに思わずクスリと笑むと、エリオットがつられるようにへにゃりと相好を崩した。
美形の、飾り気のない無防備な笑顔は、破壊力がある。
シュエットは怯みそうになったが、長女の意地で笑みを貼り付けた。
緊張していた手から力が抜けて、遠慮がちに手が握り込まれる。
じわ、じわ、じわ、と合わさる手のひらは、まだ緊張しているせいかシュエットよりも体温が高かった。
「やればできるではないか」
ふん、と鼻息も荒くピピが腕組みをして頷いている。
「第一の試練、合格じゃ。まだまだ、先は長いの」
合格の声に安心したのか、エリオットがテーブルに突っ伏す。
もちろん、握手したままだ。握手というよりは手をつないでいるような感じだったけれど。
つながれたままの手を振り解くべきか悩んで、シュエットは結局、エリオットが気付くまでそのままでいた。
(だって、振り解いたら、せっかく頑張ったのにかわいそうじゃない)
そう、言い訳して。
「……実は、そう、なんだ」
ボソボソと自信なさげに呟くエリオットに、ピピが「軟弱者がぁっ」と喝を入れている。
「だって、仕方がないだろう。学生時代は友だちもいなかったし、魔導書院に行ってからはもっと人と関わらなくなったんだ。僕が今、関わっているのなんて、兄上とメナートくらいなのだぞ? そんな状態で、どうやって人付き合いをしろって言うんだ」
ピピに耳たぶを引っ張られながら、エリオットは涙目でそう訴えた。
シュエットは、エリオットをかわいそうに思った。
握手一つまともにできないくらい、彼は友だちに恵まれていなかったらしい。
(この美貌で、この年齢で、まだ結婚できていないのはそのせいね)
実は、エリオットが独身なのかどうか、シュエットは怪しんでいた。
だって、彼の顔は本当に、信じられないくらい綺麗だ。ちょっと猫背気味ではあるけれど、背も高いし、太ってもいない。
こんな男が社交界にいて、貴族の目の肥えたご令嬢たちが放っておくわけがない。
だが、握手さえまともにできない男なら、どうだろう。
どんなに見目がよろしくても、触れ合うことさえままならない男を、令嬢たちが相手にするわけがない。
(もったいない)
本当に、もったいない。
こんなに綺麗ですてきなのに、どうして結婚できないのだろう。
(こうなったら……)
シュエットの姉魂に火がついた。
私が、どうにかしてあげないと。
持ち前の世話好きを発揮した彼女は、エリオットを安心させるように穏やかに微笑みかけた。
「大丈夫よ、エリオット。私、じっとしているから。それに……第一の試練をさっさと終わらせないと、買い物にも行けないわ。だって、あなたはここで暮らすのでしょう? 買い揃えないといけないものが、たくさんあるわ」
そう言えば、エリオットの目にわずかながらのやる気が戻ってきたようだった。
引っ込めていた手を服でゴシゴシと乱雑に拭って、エリオットはおずおずと、まるで初めて見る生き物を触るかのように、ゆっくりそろりと触れてくる。
触れるか触れないかの触れ合いは、こそばゆい。
くすぐったさに思わずクスリと笑むと、エリオットがつられるようにへにゃりと相好を崩した。
美形の、飾り気のない無防備な笑顔は、破壊力がある。
シュエットは怯みそうになったが、長女の意地で笑みを貼り付けた。
緊張していた手から力が抜けて、遠慮がちに手が握り込まれる。
じわ、じわ、じわ、と合わさる手のひらは、まだ緊張しているせいかシュエットよりも体温が高かった。
「やればできるではないか」
ふん、と鼻息も荒くピピが腕組みをして頷いている。
「第一の試練、合格じゃ。まだまだ、先は長いの」
合格の声に安心したのか、エリオットがテーブルに突っ伏す。
もちろん、握手したままだ。握手というよりは手をつないでいるような感じだったけれど。
つながれたままの手を振り解くべきか悩んで、シュエットは結局、エリオットが気付くまでそのままでいた。
(だって、振り解いたら、せっかく頑張ったのにかわいそうじゃない)
そう、言い訳して。
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