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四章 シュエット・ミリーレデルの新生活

39 試練〜握手〜②

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「わらわは、嫁選びの書、である! いにしえの盟約にのっとり、そなたたちに試練を与える!」

「おまえ、人の姿にもなれたのか」

「うむ! わらわは特別な魔導書ゆえ、好きな姿になれるのじゃ。もっとも、フクロウの姿が一番気に入っているのだが……そもそも、ヴォラティル魔導書院の魔導書を鳥の姿にしているのも、わらわたちが鳥の姿を好むからなのじゃ。木を隠すには森、と言うじゃろう?」

「そうなのか。それは、初耳だ」

「そうであろう、そうであろう! だって、今まで誰にも教えなかったからな! エリオット、おまえだから教えたのじゃぞ?」

「はぁ……」

 特別なのじゃ! と嫁選びの書だと言う幼女は胸を張った。

 対するエリオットは、困ったような、どうでもいいような顔をして幼女を見つめている。

 シュエットはエリオットと幼女のやりとりを、ポカンと眺めていた。

 どうやらこの幼女が嫁選びの書で、つい今し方までモリフクロウの姿を取っていたらしいと理解はできたものの、シュエットの常識では計り知れないことの連続で、思考が停止せざるを得ない。

 幼女はエリオットからシュエットへと視線を移すと、にっこりとほほえむ。

 まるで天使のような愛らしい笑みに、思わずシュエットも笑い返した。

「はじめまして、なのじゃ。わらわの名前は、ピピ。普段はモリフクロウの姿をしているが、真の姿は嫁選びの書じゃ」

 タタタと走り寄ってきたピピと名乗る幼女は、そう言ってスカートの端を持ち上げてお辞儀をした。

 二歳くらいの子のように見えるのに、そのしぐさは随分と慣れた様子だ。見た目通りの年齢ではないのだと、シュエットは感じた。

「シュエット・ミリーレデル。そなたならば、エリオットの良きつがいになると、わらわは信じておる。だが、わらわも万能ではない。時には間違いもあろう。だから、そのために試練は用意されているのじゃ。試練に挑み、それでもエリオットのことを番と認められない時は……そなたから嫁選びの書わらわに関する全ての記憶を消し、なかったことにする」

 天使のようなほほえみを浮かべながら、ピピは似つかわしくない厳しい口調でそう告げた。

 笑顔と口調のちぐはぐさに、得体の知れない恐怖のようなものが迫り上がる。

「なかったことに……?」

「ああ、そうじゃ。エリオットの番に選ばれたことも、試練のことも、禁書のことも、すべて。それを惜しいと思うのであれば、エリオットを選べば良い。しかし……試練はまだ始まってもいない。これからしばし、付き合っておくれ」

 あどけない顔をしているのに、ずっと年上の人に諭されているような気分になる。

 おかしな感覚を覚えながら、シュエットはこくりと頷いていた。

「うむ、良い子じゃ。ではさっそく、第一の試練を行ってもらおう。エリオット、スポンジを片付けて、早うこちらへ」

「あ、ああ」

 エリオットがスポンジを片付けて手を拭いている間、シュエットはピピに導かれてダイニングの椅子へと腰かけた。テーブル越しのもう一脚の椅子には、エリオットが座る。
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