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三章 シュエット・ミリーレデルの非日常
30 嫁選びの書①
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「カフェオレしかないんですけど……」
招き入れたエリオットに椅子を勧め、キッチンで彼用のカフェオレを淹れる。
椅子の上でかわいそうなくらい恐縮しきっているエリオットの前に、カフェオレをたっぷり注いだカップを置いてから、シュエットはそう言った。
正確には「カフェオレしか作れないんですけど」だが、今は言う必要はないだろう。
テーブルごしにエリオットと対面するように腰掛けたシュエットに、エリオットがボソボソと「ありがとう」とカフェオレの礼を告げる。
やや俯いた角度から上目遣いでシュエットを見てくる彼は、彼女に捨てられたら終わりだと思っている、哀れな捨て犬のように見えた。
(見た目と中身にギャップがある人なのかしら……?)
もっと自信を持って堂々としていれば良いのに。
高貴そうな見た目をしているのに、態度がおどおどしているせいで台無しになっている。
勿体ないと思っているシュエットの前で、エリオットは背を丸めてカフェオレに息を吹きかけていた。猫舌らしい。
(……なんというか、聞いていたよりも随分とかわいらしい人みたい?)
人付き合いが悪いという話だったが、もしかしたら人付き合いが悪いのではなくて、下手なのかもしれない。彼からは、シュエットとどう接したら良いのかわからないという戸惑いが、ビシバシ伝わってきた。
なんだか、小動物みたいな人だ。
シュエットの脳裏にふと、真っ黒い子猫が浮かぶ。
(カフェオレのカップに顔を寄せてフーフーしている子猫……かわいい)
おひげにミルクをつけていたらもっとかわいい、なんてシュエットに思われているとも知らず、エリオットはカフェオレを一口飲んでフゥと息を吐いた。
小さく「おいしい」と呟く彼に、じわじわとシュエットの顔に喜色が浮かぶ。
モニュモニュとくすぐったそうに唇が動いている。かなり、嬉しかったらしい。
「それで……話、なのだが。僕は今、ヴォラティル魔導書院で司書の仕事をしていて……あ、ヴォラティル魔導書院は知っている?」
「ええ。利用したことはありませんが、知っています。世にも珍しい、魔導書が鳥の姿をしている魔導書院ですよね?」
「ああ、そうだ。そして、そこにいるモリフクロウは、魔導書なんだ。それも、持ち出し禁止の禁書と呼ばれる類の」
魔導師の国、リシュエルにおいて、魔導書はとても重要なものだ。
だからこそ、特殊な方法で厳重な扱いを受けている。
ヴォラティル魔導書院では、魔導書を鳥の姿にすることで持ち出しにくくしている。
無断で持ち出そうとすれば、魔導書がけたたましく鳴き叫ぶ、というわけだ。
招き入れたエリオットに椅子を勧め、キッチンで彼用のカフェオレを淹れる。
椅子の上でかわいそうなくらい恐縮しきっているエリオットの前に、カフェオレをたっぷり注いだカップを置いてから、シュエットはそう言った。
正確には「カフェオレしか作れないんですけど」だが、今は言う必要はないだろう。
テーブルごしにエリオットと対面するように腰掛けたシュエットに、エリオットがボソボソと「ありがとう」とカフェオレの礼を告げる。
やや俯いた角度から上目遣いでシュエットを見てくる彼は、彼女に捨てられたら終わりだと思っている、哀れな捨て犬のように見えた。
(見た目と中身にギャップがある人なのかしら……?)
もっと自信を持って堂々としていれば良いのに。
高貴そうな見た目をしているのに、態度がおどおどしているせいで台無しになっている。
勿体ないと思っているシュエットの前で、エリオットは背を丸めてカフェオレに息を吹きかけていた。猫舌らしい。
(……なんというか、聞いていたよりも随分とかわいらしい人みたい?)
人付き合いが悪いという話だったが、もしかしたら人付き合いが悪いのではなくて、下手なのかもしれない。彼からは、シュエットとどう接したら良いのかわからないという戸惑いが、ビシバシ伝わってきた。
なんだか、小動物みたいな人だ。
シュエットの脳裏にふと、真っ黒い子猫が浮かぶ。
(カフェオレのカップに顔を寄せてフーフーしている子猫……かわいい)
おひげにミルクをつけていたらもっとかわいい、なんてシュエットに思われているとも知らず、エリオットはカフェオレを一口飲んでフゥと息を吐いた。
小さく「おいしい」と呟く彼に、じわじわとシュエットの顔に喜色が浮かぶ。
モニュモニュとくすぐったそうに唇が動いている。かなり、嬉しかったらしい。
「それで……話、なのだが。僕は今、ヴォラティル魔導書院で司書の仕事をしていて……あ、ヴォラティル魔導書院は知っている?」
「ええ。利用したことはありませんが、知っています。世にも珍しい、魔導書が鳥の姿をしている魔導書院ですよね?」
「ああ、そうだ。そして、そこにいるモリフクロウは、魔導書なんだ。それも、持ち出し禁止の禁書と呼ばれる類の」
魔導師の国、リシュエルにおいて、魔導書はとても重要なものだ。
だからこそ、特殊な方法で厳重な扱いを受けている。
ヴォラティル魔導書院では、魔導書を鳥の姿にすることで持ち出しにくくしている。
無断で持ち出そうとすれば、魔導書がけたたましく鳴き叫ぶ、というわけだ。
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