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二章 シュエット・ミリーレデルの過去

25 諦めたはずの初恋②

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 ヴォラティル魔導書院の禁書が、禁書たるゆえん。

 それは、その強制力にある。

 膨大な魔力を有する王族でさえ抗えない強制力を持つからこそ、三冊の禁書は禁書なのだ。

 むかしむかし、リシュエル王国の王族は、魔術で嫁を選び、婚約し、婚姻していた。

 魔術師の国と呼ばれる、リシュエルらしい方法だ。

 選ばれた花嫁は、大変不名誉なことに『生贄の花嫁』と呼ばれている。

 それはむかしの王族が、人の身に余る魔力を保有していたせいで、花嫁が短命に終わるからだった。

 自分が早死にすると知っていて「はい、わかりました」と応じる娘は多くなかったし、娘が早死にすると知っていて、喜んで差し出す親もそう多くない。

 だから、公平に魔術で嫁を選び、選ばれた女性が逃げないように婚約し、婚姻まで持っていくのである。

 なんともひどい話だが、それも昔の話だ。

 今となっては、人の寿命に影響を及ぼすほどの魔力を保有する王族もいない。

 時代とともに『生贄の花嫁』は必要なくなった、というわけである。

嫁選びの書モリフクロウ】ができることは、三つ。

 対象の王族にふさわしい女性を見つけること。

 選ばれた女性がよそ見をしないように、王族と離れられないようにすること。

 そして、王族と女性が仲良くなるための試練を課すことである。

 一度かけられた魔術は、全ての試練をクリアするまで解けない。

 つまりシュエットは、モリフクロウに見初められた段階で、もう逃げ道なんてなかった。

 魔法陣から溢れ出た光は、エリオットとシュエットの手首に絡まると、グネグネと生き物のようにまとわりつく。

 まるで蛇が手首に絡むような感覚に、ゾワゾワと鳥肌が立った。

 シュエットも同じようで、ベランダから悲鳴が上がる。

「きゃああ!」

 ベランダで、シュエットが腕を振り回している。

(ああ、そんなに動いたら──)

 落ちてしまう。

 と思う前に、シュエットの体が傾ぐ。

 手すりにもたれた体はそのまま停止するかと思いきや、ズルリと頭から重力に従って落ちてきた。

 エリオットはとっさに風の魔術を発動させると、シュエットの体を浮かせる。

 ふわふわと空から落ちてくるように下ろした彼女を、エリオットは大事そうに抱えた。

 気絶しているのか、シュエットは苦悶くもんの表情を浮かべてまぶたを下ろしたまま。

 それでも、こんな間近で彼女を見たのは初めてのことで、エリオットはついまじまじと見入ってしまったのだった。
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