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二章 シュエット・ミリーレデルの過去

18 気になる視線③

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 自堕落でだらしがない人は苦手なはずだ。

 エリオットという人は、まさにそういう人だと聞いたばかりなのに。

(どうしてかしら?)

 シュエットはわりと、人を選り好みするタイプだ。警戒心が強いタイプともいう。

 ベルジュネットやコルネーユとも、半年かけて友人と呼べる間柄になった。

 そんなシュエットだから、エリオットのことは初見だけで苦手と判断するはずである。

 だが、心に浮かんだのはそれを否定する言葉。

 わけがわからず、シュエットは首をかしげた。

「でしょう? ああいう男はさ、シュエットみたいなお姉ちゃんタイプの女に守ってもらいたい、優しくしてもらいたいって思っているんだよ。何もしたくないから」

「そうそう。シュエットはしっかりしていて頼りがいがあるけれど、実は世話を焼くより焼かれる方が合っていると思うの。だから、甘えん坊タイプのエリオット先輩は、なしね」

「そうかしら……?」

 甘やかしてくれる人よりも、甘えてくれる人との方が相性が良いと思っていたシュエットは、友人たちの言葉を意外に思った。

 だって、シュエットは人の世話を焼くことが多い。

 すぐ下の妹、アルエットとは年子で、物心つく前から「お姉ちゃんなのだから」と言われ続けてきた。

 結果、彼女は自分のことは自分でやって、さらに余力まで捻出して他者の手助けをすることが癖になっている。

(だから、私は甘えてくれる年下の子の方が気が楽なのよね)

 シュエットは、甘えることが苦手だ。

 幼い頃から頼らない生活を続けてきたせいで、誰かに頼ることがひどく悪いことのように思えてしまう。

 本当にどうしようもない場面にならないと、助けてと言い出せなかった。

 とはいえ、本当にどうしようもなくなることなんて早々ない。

 シュエットはいわゆる器用貧乏というやつで、大抵のことはどうにかなってしまったからである。

 おかげでと言うべきか、そのせいでと言うべきか。

 誰かに頼みごとをするくらいなら、血反吐を吐いてまでも自分で解決しようとする、クソ真面目で融通のきかない、優等生に育ってしまった。

 頼みごとをする時は不本意すぎて、無表情になってしまうかわいげのなさ。

 これでは、恋愛結婚なんて望めないだろう。

 かわいげのない子なんて、男の子はみんなイヤに決まっている。

 自分でもどうにかしなきゃとは思っているのだが、何から手をつけていいものか。

 友人たちに助けを求めようにも、助けての一言さえ言えないでいる。

「私、甘えるより甘やかす方が得意だけれど」

 だからせめて、得意だと思える世話焼きで挽回しようとしたのだが、結果は不名誉なあだ名である。

女家庭教師ガヴァネス、なんて……)

 クラスメイトの男の子から初めてそう呼ばれた時のことを思い出して、シュエットはガッカリした。

 シュエットとしては助けてあげているつもりだったのに、彼にとっては余計なお世話だったのだ。

 以来、クラスメイトたちから「女家庭教師せんせい」と呼ばれては、悲しい気持ちを押し殺して、笑い返している。
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