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二章 シュエット・ミリーレデルの過去

15 もふもふ、現る②

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「あの、モリフクロウさん? おとなりさんじゃなくて、私に用があるのかしら?」

 モリフクロウはシュエットのことを頭のてっぺんから足先までしっかりと観察して、それから彼女の自宅をチラリと盗み見た。

 モリフクロウの体が、わずかに後退する。

 まるで、シュエットの家に問題があるかのような態度だ。

(まぁ、問題はありまくりだけど)

 なにせ、シュエットの家ときたらとても人様に見せられるようなありさまではなかった。

 今、ピンポンとチャイムを鳴らされても、すぐに迎え入れることは不可能なくらい。

(でも、体を引くほどではないんじゃないかしら……これでも、まだマシな方なのに)

 モリフクロウの主人は、とても綺麗好きな人なのだろうか。

(だとしたら、私とは仲良くできそうにないわね)

 きっと、シュエットの家を見たら、回れ右して逃げてしまうに違いない。

(もっとも、モリフクロウの主人と私が出会うことなんてないでしょうけど)

 結婚について考えていたせいだろうか。

 どうにも、発想が恋愛そっち方面になりがちである。

 偶然出会ったフクロウが取り持つ恋なんて、長女らしからぬエピソード。

(ないわ、ないない)

 三人きょうだいの一番上は、可もなく不可もない、どこにでも転がっているような人生を、手堅く生きていくのが無難なのだ。

 フクロウ百貨店の店主(独身)が、フクロウのおかげで恋人ゲット──なんて独身女性が飛びつきそうなネタである。

(そんなネタみたいな話、現実にはあり得ない)

 首を振って、思い浮かんだすてきな出会いを打ち消す。

 そうしてシュエットはどこか寂しげにため息を吐いて、 

「……あら?」

 と、ミリーレデルのフクロウ百貨店の前に立って、こちらを見上げる誰かを見つけた。

 春の夜風に吹かれて、目深に被った暗い色合いのローブが揺れている。

 ローブには金の糸で刺繍が施されていて、三階からでも高級品であることがうかがえた。

 細めの体を丸めて、ローブの奥からシュエットの方を見上げているようにも見える。

 長い前髪が邪魔をして、シュエットはその誰かがどんな顔をしているのかもわからなかった。

 だけどシュエットはなぜか、ローブの人物を知っているような気がした。

 いや。正しくは、ローブの人物の視線に、と言うべきか。

 物言いたげなその視線は、学生時代に幾度か感じたことのある視線と酷似している。

「エリオット先輩……?」

 そう、彼の。

 視線に。

 
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