上 下
6 / 110
一章 シュエット・ミリーレデルの日常

06 フクロウ百貨店のお客様・一人目①

しおりを挟む
 ペルッシュ横丁にあるミリーレデルのフクロウ百貨店は、今日も今日とて閑古鳥かんこどりが鳴いている。フクロウ百貨店なのに。

「……なんて、笑えない」

 黄昏時たそがれどきの空をカウンターから眺めて、シュエットは物憂げなため息をいた。

 窓の外を、家路に就く人々が忙しなく歩いていく。ミリーレデルのフクロウ百貨店なんて、目にも留めずに。

 壁のフクロウ時計を見れば、まもなく時刻は十七時。あと数分で閉店時間である。

「みんな、ごめんなさい。今日も、家族を見つけてあげられなかったわね」

 シュエットの申し訳なさそうな声に、店内にいたフクロウたちが口々に「ホゥホゥ」と答えてくれる。「気にしないで」と言っているように。

 朝とは違い、今の時間はみんな目をパッチリさせている。

 夜行性である彼らは、今からが活動時間なのだ。

 両親から、この店が繁盛することは期待されていない。

 ちょっと魔力を使うだけで、一瞬で遠いところにいる人と連絡が取れてしまうという魔導式通信機が普及してからというものの、手紙はあっという間に廃れてしまった。

 それに伴ってフクロウの人気も薄れ、今や野良フクロウが保健所に捕獲される始末なのである。特に、手紙しか運べない小型のフクロウの人気低下は著しい。

 そんな中、新たにフクロウを家族に迎えようという酔狂な人は少なかった。

「まぁ、フクロウ百貨店がダメでも他は繁盛しているから、全体を見れば問題ないのだけれど」

 ミリーレデルはフクロウ百貨店だけではない。

 ネコ百貨店やイヌ百貨店、小動物百貨店なんかも経営している。

 最近は爬虫類にも手を出し、大成功をおさめていた。

 散歩もいらなければ、鳴くこともない。餌は虫で安価ということもあり、王都の狭い家で一人暮らしをする若い魔導師たちには、ちょうど良い相棒なのだろう。

 本店の片隅で始めた爬虫類だったが、もう少ししたら爬虫類百貨店をオープンさせると両親は計画していた。

「爬虫類の何が良いのかしら? あなたたちみたいにモフモフじゃないし、小包の運搬も出来ないのにね」

 今日来店したのは、たったの三人。

 一人目は、三軒となりにある梔子メイズ色の建物、プルでネージュ料理店ビストロ・プルでネージュのボーイ兼料理人見習いのカナールだ。

 正確に言えば、彼は客ではない。どちらかといえば、シュエットが客である。

 カナールは毎日、昼前になるとフクロウ百貨店へやって来て、あるものを手渡してくれる。

 今日は、ローストビーフのサラダとベーグル。

 そう。カナールは毎日、シュエットにランチボックスを届けてくれるのだ。

「最近、どう?」

 クリクリとした大きな黒い目で、カナールは閑散としている店内を見遣った。

 濃い黄色のような金の髪は後ろでちょこんと結われていて、料理人らしい真っ白な服がよく似合っている。

 年齢は、十八歳。だが、まだまだ幼さは抜けきれていない。

 カナールはプルデネージュ料理店の店主の遠縁にあたる。

 ゆくゆくは、幼馴染みでもある店主の娘と結婚して後を継ぐ予定だとシュエットは聞いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

ご愛妾様は今日も無口。

ましろ
恋愛
「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」 今日もアロイス陛下が懇願している。 「……ご愛妾様、陛下がお呼びです」 「ご愛妾様?」 「……セレスティーヌ様」 名前で呼ぶとようやく俺の方を見た。 彼女が反応するのは俺だけ。陛下の護衛である俺だけなのだ。 軽く手で招かれ、耳元で囁かれる。 後ろからは陛下の殺気がだだ漏れしている。 死にたくないから止めてくれ! 「……セレスティーヌは何と?」 「あのですね、何の為に?と申されております。これ以上何を搾取するのですか、と」 ビキッ!と音がしそうなほど陛下の表情が引き攣った。 違うんだ。本当に彼女がそう言っているんです! 国王陛下と愛妾と、その二人に巻きこまれた護衛のお話。 設定緩めのご都合主義です。

みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います

下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。 御都合主義のハッピーエンドです。 元鞘に戻ります。 ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

処理中です...