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一章 シュエット・ミリーレデルの日常
06 フクロウ百貨店のお客様・一人目①
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ペルッシュ横丁にあるミリーレデルのフクロウ百貨店は、今日も今日とて閑古鳥が鳴いている。フクロウ百貨店なのに。
「……なんて、笑えない」
黄昏時の空をカウンターから眺めて、シュエットは物憂げなため息を吐いた。
窓の外を、家路に就く人々が忙しなく歩いていく。ミリーレデルのフクロウ百貨店なんて、目にも留めずに。
壁のフクロウ時計を見れば、まもなく時刻は十七時。あと数分で閉店時間である。
「みんな、ごめんなさい。今日も、家族を見つけてあげられなかったわね」
シュエットの申し訳なさそうな声に、店内にいたフクロウたちが口々に「ホゥホゥ」と答えてくれる。「気にしないで」と言っているように。
朝とは違い、今の時間はみんな目をパッチリさせている。
夜行性である彼らは、今からが活動時間なのだ。
両親から、この店が繁盛することは期待されていない。
ちょっと魔力を使うだけで、一瞬で遠いところにいる人と連絡が取れてしまうという魔導式通信機が普及してからというものの、手紙はあっという間に廃れてしまった。
それに伴ってフクロウの人気も薄れ、今や野良フクロウが保健所に捕獲される始末なのである。特に、手紙しか運べない小型のフクロウの人気低下は著しい。
そんな中、新たにフクロウを家族に迎えようという酔狂な人は少なかった。
「まぁ、フクロウ百貨店がダメでも他は繁盛しているから、全体を見れば問題ないのだけれど」
ミリーレデルはフクロウ百貨店だけではない。
ネコ百貨店やイヌ百貨店、小動物百貨店なんかも経営している。
最近は爬虫類にも手を出し、大成功をおさめていた。
散歩もいらなければ、鳴くこともない。餌は虫で安価ということもあり、王都の狭い家で一人暮らしをする若い魔導師たちには、ちょうど良い相棒なのだろう。
本店の片隅で始めた爬虫類だったが、もう少ししたら爬虫類百貨店をオープンさせると両親は計画していた。
「爬虫類の何が良いのかしら? あなたたちみたいにモフモフじゃないし、小包の運搬も出来ないのにね」
今日来店したのは、たったの三人。
一人目は、三軒となりにある梔子色の建物、プルでネージュ料理店のボーイ兼料理人見習いのカナールだ。
正確に言えば、彼は客ではない。どちらかといえば、シュエットが客である。
カナールは毎日、昼前になるとフクロウ百貨店へやって来て、あるものを手渡してくれる。
今日は、ローストビーフのサラダとベーグル。
そう。カナールは毎日、シュエットにランチボックスを届けてくれるのだ。
「最近、どう?」
クリクリとした大きな黒い目で、カナールは閑散としている店内を見遣った。
濃い黄色のような金の髪は後ろでちょこんと結われていて、料理人らしい真っ白な服がよく似合っている。
年齢は、十八歳。だが、まだまだ幼さは抜けきれていない。
カナールはプルデネージュ料理店の店主の遠縁にあたる。
ゆくゆくは、幼馴染みでもある店主の娘と結婚して後を継ぐ予定だとシュエットは聞いていた。
「……なんて、笑えない」
黄昏時の空をカウンターから眺めて、シュエットは物憂げなため息を吐いた。
窓の外を、家路に就く人々が忙しなく歩いていく。ミリーレデルのフクロウ百貨店なんて、目にも留めずに。
壁のフクロウ時計を見れば、まもなく時刻は十七時。あと数分で閉店時間である。
「みんな、ごめんなさい。今日も、家族を見つけてあげられなかったわね」
シュエットの申し訳なさそうな声に、店内にいたフクロウたちが口々に「ホゥホゥ」と答えてくれる。「気にしないで」と言っているように。
朝とは違い、今の時間はみんな目をパッチリさせている。
夜行性である彼らは、今からが活動時間なのだ。
両親から、この店が繁盛することは期待されていない。
ちょっと魔力を使うだけで、一瞬で遠いところにいる人と連絡が取れてしまうという魔導式通信機が普及してからというものの、手紙はあっという間に廃れてしまった。
それに伴ってフクロウの人気も薄れ、今や野良フクロウが保健所に捕獲される始末なのである。特に、手紙しか運べない小型のフクロウの人気低下は著しい。
そんな中、新たにフクロウを家族に迎えようという酔狂な人は少なかった。
「まぁ、フクロウ百貨店がダメでも他は繁盛しているから、全体を見れば問題ないのだけれど」
ミリーレデルはフクロウ百貨店だけではない。
ネコ百貨店やイヌ百貨店、小動物百貨店なんかも経営している。
最近は爬虫類にも手を出し、大成功をおさめていた。
散歩もいらなければ、鳴くこともない。餌は虫で安価ということもあり、王都の狭い家で一人暮らしをする若い魔導師たちには、ちょうど良い相棒なのだろう。
本店の片隅で始めた爬虫類だったが、もう少ししたら爬虫類百貨店をオープンさせると両親は計画していた。
「爬虫類の何が良いのかしら? あなたたちみたいにモフモフじゃないし、小包の運搬も出来ないのにね」
今日来店したのは、たったの三人。
一人目は、三軒となりにある梔子色の建物、プルでネージュ料理店のボーイ兼料理人見習いのカナールだ。
正確に言えば、彼は客ではない。どちらかといえば、シュエットが客である。
カナールは毎日、昼前になるとフクロウ百貨店へやって来て、あるものを手渡してくれる。
今日は、ローストビーフのサラダとベーグル。
そう。カナールは毎日、シュエットにランチボックスを届けてくれるのだ。
「最近、どう?」
クリクリとした大きな黒い目で、カナールは閑散としている店内を見遣った。
濃い黄色のような金の髪は後ろでちょこんと結われていて、料理人らしい真っ白な服がよく似合っている。
年齢は、十八歳。だが、まだまだ幼さは抜けきれていない。
カナールはプルデネージュ料理店の店主の遠縁にあたる。
ゆくゆくは、幼馴染みでもある店主の娘と結婚して後を継ぐ予定だとシュエットは聞いていた。
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