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四章

111 妖精女王が求める対価②

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「おまえが中央の国へ留まること。そして、毎週木曜日に行われる女王の茶会で茶と菓子を提供すること。それが条件だそうだ。王はゴネたが、女王が許可を出した」

 無邪気に「リコリスとスヴェートを生贄にしよう!」と言い放った妖精王に、しかし妖精の女王は待ったをかけたらしい。
 女王は恋をする妖精に寛容だ。そして、うわさ話が大好きでもある。
 ペリーウィンクルがローズマリーの恋を応援していることも、ヴィアベルがペリーウィンクルと仲たがいしたことも承知の上で、それを提案したのだろう。

「四季の国へは行けなくなるが、望みは叶う。さぁ、おまえはどうする?」

 これは対価だ、とペリーウィンクルは思った。
 妖精の願いを叶える時に対価をもらうように、妖精に願いを叶えてもらうには対価が必要である。

 ペリーウィンクルの望みは、リコリスを生贄にすることなくこの事態を収束させること。
 そんな彼女の望みに対して提示された対価は、中央の国へ留まること、そして女王の茶会で茶と菓子を提供することだ。
 現在進行形で中央の国をめちゃくちゃにしていることを鑑みれば、この対価は破格と言える。

 ペリーウィンクルの脳裏にふと、祖父と両親の墓が思い起こされた。
 だけど、それだけだ。それ以外に未練なんてない。

 ローズマリー、セリ、サントリナと会えなくなるのは少し寂しい気もするが、どのみち卒業後はおいそれと会えるような人たちではない。
 それに、妖精と契約している彼女たちは、中央の国へ来ることも可能だろう。

 ペリーウィンクルはそっと目を閉じて、祖父と両親が眠る墓を思い浮かべた。
 彼らが眠る墓地は、ペリーウィンクルしか守れない。
 彼女が手を入れなければ、あっという間に草で埋もれてしまうだろう。

 ペリーウィンクルはそっと手を握り、心の中で謝った。

(おじいちゃん、おかあさん、おとうさん、ごめんなさい)

 もういない彼らがほほえんだような気がしたのは、彼女がそうあってほしいと思ったからでしかなかったが、ペリーウィンクルはそれで良いと思った。

 ペリーウィンクルの決断を、人は笑うかもしれない。馬鹿にするかもしれない。

(でも、ヒロインが暴走しちゃったのは私が一因とも言えなくもないわけですし?)

 ペリーウィンクルがもっとうまくやっていれば、こんなことにならなかったかもしれない。
 だって彼女は、この世界の未来を知っていたのだから。

 目を開けて、ヴィアベルを見据える。
 にらむように見つめてからフッと表情を和らげた彼女は、穏やかな笑みを浮かべてヴィアベルへ宣言した。

「ヴィアベルはずっと一緒にいてくれるんでしょ? それなら、いいよ」

 朗らかに笑う彼女に、迷いは見えない。
 ヴィアベルは「そうか」と安心したように微笑み返した。
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