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四章

103 悪役令嬢たちの茶会③

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 卒業までもう一カ月を切っている。
 ここに居られる時間は、あとわずかだ。

 三人の卒業試験は、順調である。
 種から芽が出て、茎が伸び、小さかった蕾は日々ふっくらと大きくなってきていた。
 あと二週間もすれば、合格判定をもらえるだろう。

 卒業試験では、早く蕾をつければつけた分だけ、優秀な妖精使いフェアリーテイマーだというお墨付きをもらえる。
 三人はもちろん、優秀な方だ。

 卒業すれば、それぞれの自国へ帰ることになるだろう。
 ローズマリーは春の国へ、サントリナは冬の国へ、セリはルジャへ。
 サントリナはニゲラと結婚した後に夏の国へ、セリはシナモンとともに秋の国へ行く予定だが、それでも誰一人同じ国にはならない。

 だから一緒に居られる時間は、もう本当に少ないのだ。
 ペリーウィンクルには特に世話になったと思っているサントリナは、今後はハーブ知識の師匠として、そして友人として末長く付き合っていきたいと思っている。
 だから、卒業試験の合間を縫ってやって来てはお茶に誘っているのだが、ペリーウィンクルが部屋から出て来た試しはない。

「どうすれば良いのだろうね」

 ペリーウィンクルの後押しのおかげでニゲラとの関係が進展したサントリナとしては、どうにかしてあげたいところだ。
 そもそも、ペリーウィンクルが言うヴィアベルとは何者なのか。
 首をかしげてうなるサントリナに、ローズマリーが紅茶のカップを差し出しながら言った。

「実はわたくし、ヴィアベルという方のことをトゥルシー様に聞いてみたのです。けれど……彼女も知らないそうですわ」

 続いてカップを受け取ったセリは、図書室でよく見かけていたトゥルシーを思い出していた。
 いつも一人で黙々と読書をしていた彼女だが、最近はあまり図書室へ来ない。
 シナモン曰く、ディルとお付き合いをしているそうで、ひそかに心配していたセリは「それなら良かった」と安堵あんどしたばかりだ。

「トゥルシー様は絶対記憶の持ち主ですよね? 学校の見取り図から関係者リストに至るまで、全て覚えていると聞きましたわ」

「ええ。そんな彼女さえ知らないのですから、おそらくペリー本人しか知らないのでしょう」

 気落ちしたのか、小さなため息を吐いてローズマリーがソファへ腰を下ろす。
 そんな彼女へ角砂糖の瓶を寄せながら、サントリナは言った。

「そうか……もしかしたら、ヴィアベルという人は四季の国の人なのかもしれないね。こちらの国と四季の国では時差があるから……気持ちがすれ違うこともあるだろう」

「そうですわね。わたくしはその時差のおかげでうまくいきそうですけれど……わたくしが巻き込んだばかりに、ペリーが不幸せになるのは……嫌ですわ」

 三人そろって、示し合わせたかのようにハァァと特大のため息を吐く。
 そんな契約者たちを見ていた妖精たちは、意を決したように頷き合うと、多肉植物のようなぷっくりした手をギュッと握って、えいやっと声を上げた。

『ヴィアベルは月明かりの妖精だよ』

 とは、ローズマリーの契約している子ブタの妖精だ。

『ペリーウィンクルのつがいなのです」

 続いてセリが契約しているキツネ耳の妖精が言い、

『今はちょっと距離を置いているから、放っておけって言っているわ』

 最後はサントリナが契約している海月くらげの姿をした妖精が締め括った。

 衝撃の事実を聞かされて、三人は驚きのあまり声もでない。
 その静寂を破ったのは、ペリーウィンクルだった。

 最初に叫び声が、それから物が倒れるような音が響く。
 弾かれるようにサントリナが駆け出し、そのあとをローズマリーとセリが追いかける。

「ペリーウィンクルさん!」

 だが、遅かった。
 窓が割れ、家具が倒れ、物が散乱した室内に、ペリーウィンクルはいなかったのである。

 そして、時同じくして──スルス内に警鐘が鳴り響いた。
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