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四章

92 悪役令嬢の告白②

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「お嬢様の片思い……なんですか?」

 かたや、公爵家の令嬢。かたや、公爵家お抱えの料理人。
 ローズマリーが第一王子の婚約者だということを抜いても、障害がありすぎる。
 きっと心に秘めた思いに違いない。
 そう思って言ったのだが、意外にもチャービルは情熱的な男だったらしい。

「その……実は、お付き合いしているの」

 ローズマリーの瞳がとろりととろける。
 もじもじと肩を揺らす姿は、ソレルの前では一度だって見せたことがないものだ。
 そんな彼女を見るのは初めてのことで、ペリーウィンクルは思わず天井を仰いだ。

(チャービルゥゥゥゥゥ!)

 ペリーウィンクルの中で、チャービルへの感謝と憎しみが入り混じる。
 感謝はもちろん、お嬢様の新たな一面を拝ませてくれたことに対して。憎しみは、お嬢様をたぶらかしやがってという意味だ。

「い、いつからです⁈」

「前から話をすることはあったのよ? でも、それだけだったの。変化があったのは、ダイエットをした時。彼ね、太っているわたくしもかわいいって言ってくれたのよ。あなたはそのままでも素敵だけれど、痩せたいと願うなら全力で応援しますって。痩せて綺麗になったらもっとかわいいって言ってくれるのかなって思ったら、大嫌いな運動も頑張れたわ。入学前に、玉砕覚悟で告白したら、彼もわたくしのことが好きだって言ってくれて……」

「あの、申し上げにくいのですが、お嬢様がだまされている、なんてことは……」

「ないと思うわ。だって彼、料理人として生きるために貴族をやめたのに、わたくしと結婚するためだけに頭を下げて貴族に戻ったのだもの」

「は? え……っと。貴族に、戻った?」

「ええ。チャービル様の本当の名前は、チャービル・クローデル。春の国の宰相、バレリアン・クローデル様のご子息よ」

(はぁぁぁぁぁぁ⁉︎)

 その時、ガーンと大きな音を立てて大釜が落ちた。
 もちろん、実際に落ちたわけじゃない。ペリーウィンクルの心象風景である。

 ぐわんぐわんと大釜の落ちた音が反響しているような頭をなんとか正常に戻そうと、ペリーウィンクルは頭を振る。
 そんなペリーウィンクルを前に、ローズマリーは「そうよね、そうなるわよね」と傷ついたような、残念そうな顔をしてはかなげに笑った。

「あなたの境遇を考えれば、わたくしのことを嫌悪するのは仕方のないことよ。でも、わたくしはあなたのことが大好きだから……嫌われたくなくて、言えなかった。ごめんなさいね、ペリーウィンクル」
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