84 / 122
三章
84 リンデンのお茶②
しおりを挟む
あの夜、ペリーウィンクルは妖精王の茶会で見てしまった。
シナモンに連れてこられたトゥルシーがリコリスのことばかり気にかけていることに、ディルはひどく苛立っている様子だった。
これから告白しようとしている相手が他の人ばかり気にかけているのだ。
ディルが苛立つのも当然だろう。
そう思ってペリーウィンクルは傍観に徹していたのだが、ディルはいつまでたっても茶を飲もうとしない彼女に痺れを切らし、こともあろうに口移しで飲ませた。
ヴィアベルが付加魔法をかけたペリーウィンクルお手製のハーブティーを飲んだトゥルシーは、長い眠りから目を覚ました姫のようにゆっくりとまぶたを開き、まっすぐにディルを見た。
『ようやく僕を見たな?』
そう言ったディルは、口元こそ笑っていたが、目が据わっていた。
ペリーウィンクルはそんな彼を怖いと思ったが、トゥルシーは違ったらしい。
魅入られたように見つめる彼女に、ペリーウィンクルは心の中で「え、あれにときめくの?」と引いた。
(とはいえ、あれはあれで幸せそうだし、ディルルートのヒロインエンドは回避できた。ローズマリーお嬢様からしてみたら、思惑通りってところなのかな)
最近は悪役令嬢の恋を応援することに重きが置かれていて忘れそうになるが、ローズマリーの目標はソレルに婚約破棄されることなのだ。
セリ、サントリナ、トゥルシーとそれぞれがエンディングを迎えた今、ラストに残るはローズマリーである。
当の本人は、久しぶりのビスケットを前に目をキラキラさせていた。
ビスケットを一枚、恭しく手にとって口へ運ぶ。
「ペリーは、やっぱりちょっとおまぬけさんなのかしらね」
「なんです、藪から棒に」
いきなり悪口を言われて、ペリーウィンクルはムッと唇を尖らせた。
そんな彼女を見てクスクスと笑いながら、ローズマリーは大きな口を開けてビスケットを詰め込む。
ローズマリーは洗練された貴族のお嬢様なのに、ペリーウィンクルの前ではたまに行儀が悪くなる。
前世を知るペリーウィンクルだからこそ見せられるのだと言われては、はしたないですよと注意する気も失せた。だって、頬にビスケットを詰め込む姿さえかわいかったから。
「わたくしには、ディル様があえてそうしているように見えるのよ。うふふ。まるで誘蛾灯みたいね……わたくしとしては、お二人が幸せならどちらでも構わないのだけれど」
ローズマリーの目には、どんな風に見えているのだろう。
彼女はかわいいだけのお嬢様じゃない。
公爵家令嬢として、次期王妃として教育されてきた特別な令嬢なのだ。
淡い黄緑色をしたペリドットのような目は、一体どこまで見透かしているのか。
ただの庭師でモブなペリーウィンクルが考えたところで、わかるはずもなかった。
「メンヘラの行動原点は相手にかまってほしいという気持ちで、ヤンデレの行動原点は相手のためにひたすら尽くすという気持ちと言われているわ。今のお二人は需要と供給が一致していて、まさに相思相愛。リコリス様の付け入る隙もないはずよ」
ヒロインがいなければ、あそこまで確固たる絆を育むには至らなかっただろう。
だから彼女には感謝しかないのだと、ローズマリーは淡く笑んだ。
「需要と供給が永遠に食い違わないことを祈るばかりですね」
メンヘラもヤンデレも基本的に心を病んでいる。
今は幸せいっぱいだが、バランスを崩せばどうなることか。
不穏な未来を想像してしまい、ペリーウィンクルはゾワリと肩を震わせた。
シナモンに連れてこられたトゥルシーがリコリスのことばかり気にかけていることに、ディルはひどく苛立っている様子だった。
これから告白しようとしている相手が他の人ばかり気にかけているのだ。
ディルが苛立つのも当然だろう。
そう思ってペリーウィンクルは傍観に徹していたのだが、ディルはいつまでたっても茶を飲もうとしない彼女に痺れを切らし、こともあろうに口移しで飲ませた。
ヴィアベルが付加魔法をかけたペリーウィンクルお手製のハーブティーを飲んだトゥルシーは、長い眠りから目を覚ました姫のようにゆっくりとまぶたを開き、まっすぐにディルを見た。
『ようやく僕を見たな?』
そう言ったディルは、口元こそ笑っていたが、目が据わっていた。
ペリーウィンクルはそんな彼を怖いと思ったが、トゥルシーは違ったらしい。
魅入られたように見つめる彼女に、ペリーウィンクルは心の中で「え、あれにときめくの?」と引いた。
(とはいえ、あれはあれで幸せそうだし、ディルルートのヒロインエンドは回避できた。ローズマリーお嬢様からしてみたら、思惑通りってところなのかな)
最近は悪役令嬢の恋を応援することに重きが置かれていて忘れそうになるが、ローズマリーの目標はソレルに婚約破棄されることなのだ。
セリ、サントリナ、トゥルシーとそれぞれがエンディングを迎えた今、ラストに残るはローズマリーである。
当の本人は、久しぶりのビスケットを前に目をキラキラさせていた。
ビスケットを一枚、恭しく手にとって口へ運ぶ。
「ペリーは、やっぱりちょっとおまぬけさんなのかしらね」
「なんです、藪から棒に」
いきなり悪口を言われて、ペリーウィンクルはムッと唇を尖らせた。
そんな彼女を見てクスクスと笑いながら、ローズマリーは大きな口を開けてビスケットを詰め込む。
ローズマリーは洗練された貴族のお嬢様なのに、ペリーウィンクルの前ではたまに行儀が悪くなる。
前世を知るペリーウィンクルだからこそ見せられるのだと言われては、はしたないですよと注意する気も失せた。だって、頬にビスケットを詰め込む姿さえかわいかったから。
「わたくしには、ディル様があえてそうしているように見えるのよ。うふふ。まるで誘蛾灯みたいね……わたくしとしては、お二人が幸せならどちらでも構わないのだけれど」
ローズマリーの目には、どんな風に見えているのだろう。
彼女はかわいいだけのお嬢様じゃない。
公爵家令嬢として、次期王妃として教育されてきた特別な令嬢なのだ。
淡い黄緑色をしたペリドットのような目は、一体どこまで見透かしているのか。
ただの庭師でモブなペリーウィンクルが考えたところで、わかるはずもなかった。
「メンヘラの行動原点は相手にかまってほしいという気持ちで、ヤンデレの行動原点は相手のためにひたすら尽くすという気持ちと言われているわ。今のお二人は需要と供給が一致していて、まさに相思相愛。リコリス様の付け入る隙もないはずよ」
ヒロインがいなければ、あそこまで確固たる絆を育むには至らなかっただろう。
だから彼女には感謝しかないのだと、ローズマリーは淡く笑んだ。
「需要と供給が永遠に食い違わないことを祈るばかりですね」
メンヘラもヤンデレも基本的に心を病んでいる。
今は幸せいっぱいだが、バランスを崩せばどうなることか。
不穏な未来を想像してしまい、ペリーウィンクルはゾワリと肩を震わせた。
0
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は冷徹な師団長に何故か溺愛される
未知香
恋愛
「運命の出会いがあるのは今後じゃなくて、今じゃないか? お前が俺の顔を気に入っていることはわかったし、この顔を最大限に使ってお前を落とそうと思う」
目の前に居る、黒髪黒目の驚くほど整った顔の男。
冷徹な師団長と噂される彼は、乙女ゲームの攻略対象者だ。
だけど、何故か私には甘いし冷徹じゃないし言葉遣いだって崩れてるし!
大好きだった乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた事に気がついたテレサ。
断罪されるような悪事はする予定はないが、万が一が怖すぎて、攻略対象者には近づかない決意をした。
しかし、決意もむなしく攻略対象者の何故か師団長に溺愛されている。
乙女ゲームの舞台がはじまるのはもうすぐ。無事に学園生活を乗り切れるのか……!
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
呪われ令嬢、王妃になる
八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」
「はい、承知しました」
「いいのか……?」
「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」
シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。
家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。
「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」
「──っ!?」
若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。
だがそんな国王にも何やら思惑があるようで──
自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか?
一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。
★この作品の特徴★
展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。
※小説家になろう先行公開中
※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開)
※アルファポリスにてホットランキングに載りました
※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?
うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。
これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは?
命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる