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三章
84 リンデンのお茶②
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あの夜、ペリーウィンクルは妖精王の茶会で見てしまった。
シナモンに連れてこられたトゥルシーがリコリスのことばかり気にかけていることに、ディルはひどく苛立っている様子だった。
これから告白しようとしている相手が他の人ばかり気にかけているのだ。
ディルが苛立つのも当然だろう。
そう思ってペリーウィンクルは傍観に徹していたのだが、ディルはいつまでたっても茶を飲もうとしない彼女に痺れを切らし、こともあろうに口移しで飲ませた。
ヴィアベルが付加魔法をかけたペリーウィンクルお手製のハーブティーを飲んだトゥルシーは、長い眠りから目を覚ました姫のようにゆっくりとまぶたを開き、まっすぐにディルを見た。
『ようやく僕を見たな?』
そう言ったディルは、口元こそ笑っていたが、目が据わっていた。
ペリーウィンクルはそんな彼を怖いと思ったが、トゥルシーは違ったらしい。
魅入られたように見つめる彼女に、ペリーウィンクルは心の中で「え、あれにときめくの?」と引いた。
(とはいえ、あれはあれで幸せそうだし、ディルルートのヒロインエンドは回避できた。ローズマリーお嬢様からしてみたら、思惑通りってところなのかな)
最近は悪役令嬢の恋を応援することに重きが置かれていて忘れそうになるが、ローズマリーの目標はソレルに婚約破棄されることなのだ。
セリ、サントリナ、トゥルシーとそれぞれがエンディングを迎えた今、ラストに残るはローズマリーである。
当の本人は、久しぶりのビスケットを前に目をキラキラさせていた。
ビスケットを一枚、恭しく手にとって口へ運ぶ。
「ペリーは、やっぱりちょっとおまぬけさんなのかしらね」
「なんです、藪から棒に」
いきなり悪口を言われて、ペリーウィンクルはムッと唇を尖らせた。
そんな彼女を見てクスクスと笑いながら、ローズマリーは大きな口を開けてビスケットを詰め込む。
ローズマリーは洗練された貴族のお嬢様なのに、ペリーウィンクルの前ではたまに行儀が悪くなる。
前世を知るペリーウィンクルだからこそ見せられるのだと言われては、はしたないですよと注意する気も失せた。だって、頬にビスケットを詰め込む姿さえかわいかったから。
「わたくしには、ディル様があえてそうしているように見えるのよ。うふふ。まるで誘蛾灯みたいね……わたくしとしては、お二人が幸せならどちらでも構わないのだけれど」
ローズマリーの目には、どんな風に見えているのだろう。
彼女はかわいいだけのお嬢様じゃない。
公爵家令嬢として、次期王妃として教育されてきた特別な令嬢なのだ。
淡い黄緑色をしたペリドットのような目は、一体どこまで見透かしているのか。
ただの庭師でモブなペリーウィンクルが考えたところで、わかるはずもなかった。
「メンヘラの行動原点は相手にかまってほしいという気持ちで、ヤンデレの行動原点は相手のためにひたすら尽くすという気持ちと言われているわ。今のお二人は需要と供給が一致していて、まさに相思相愛。リコリス様の付け入る隙もないはずよ」
ヒロインがいなければ、あそこまで確固たる絆を育むには至らなかっただろう。
だから彼女には感謝しかないのだと、ローズマリーは淡く笑んだ。
「需要と供給が永遠に食い違わないことを祈るばかりですね」
メンヘラもヤンデレも基本的に心を病んでいる。
今は幸せいっぱいだが、バランスを崩せばどうなることか。
不穏な未来を想像してしまい、ペリーウィンクルはゾワリと肩を震わせた。
シナモンに連れてこられたトゥルシーがリコリスのことばかり気にかけていることに、ディルはひどく苛立っている様子だった。
これから告白しようとしている相手が他の人ばかり気にかけているのだ。
ディルが苛立つのも当然だろう。
そう思ってペリーウィンクルは傍観に徹していたのだが、ディルはいつまでたっても茶を飲もうとしない彼女に痺れを切らし、こともあろうに口移しで飲ませた。
ヴィアベルが付加魔法をかけたペリーウィンクルお手製のハーブティーを飲んだトゥルシーは、長い眠りから目を覚ました姫のようにゆっくりとまぶたを開き、まっすぐにディルを見た。
『ようやく僕を見たな?』
そう言ったディルは、口元こそ笑っていたが、目が据わっていた。
ペリーウィンクルはそんな彼を怖いと思ったが、トゥルシーは違ったらしい。
魅入られたように見つめる彼女に、ペリーウィンクルは心の中で「え、あれにときめくの?」と引いた。
(とはいえ、あれはあれで幸せそうだし、ディルルートのヒロインエンドは回避できた。ローズマリーお嬢様からしてみたら、思惑通りってところなのかな)
最近は悪役令嬢の恋を応援することに重きが置かれていて忘れそうになるが、ローズマリーの目標はソレルに婚約破棄されることなのだ。
セリ、サントリナ、トゥルシーとそれぞれがエンディングを迎えた今、ラストに残るはローズマリーである。
当の本人は、久しぶりのビスケットを前に目をキラキラさせていた。
ビスケットを一枚、恭しく手にとって口へ運ぶ。
「ペリーは、やっぱりちょっとおまぬけさんなのかしらね」
「なんです、藪から棒に」
いきなり悪口を言われて、ペリーウィンクルはムッと唇を尖らせた。
そんな彼女を見てクスクスと笑いながら、ローズマリーは大きな口を開けてビスケットを詰め込む。
ローズマリーは洗練された貴族のお嬢様なのに、ペリーウィンクルの前ではたまに行儀が悪くなる。
前世を知るペリーウィンクルだからこそ見せられるのだと言われては、はしたないですよと注意する気も失せた。だって、頬にビスケットを詰め込む姿さえかわいかったから。
「わたくしには、ディル様があえてそうしているように見えるのよ。うふふ。まるで誘蛾灯みたいね……わたくしとしては、お二人が幸せならどちらでも構わないのだけれど」
ローズマリーの目には、どんな風に見えているのだろう。
彼女はかわいいだけのお嬢様じゃない。
公爵家令嬢として、次期王妃として教育されてきた特別な令嬢なのだ。
淡い黄緑色をしたペリドットのような目は、一体どこまで見透かしているのか。
ただの庭師でモブなペリーウィンクルが考えたところで、わかるはずもなかった。
「メンヘラの行動原点は相手にかまってほしいという気持ちで、ヤンデレの行動原点は相手のためにひたすら尽くすという気持ちと言われているわ。今のお二人は需要と供給が一致していて、まさに相思相愛。リコリス様の付け入る隙もないはずよ」
ヒロインがいなければ、あそこまで確固たる絆を育むには至らなかっただろう。
だから彼女には感謝しかないのだと、ローズマリーは淡く笑んだ。
「需要と供給が永遠に食い違わないことを祈るばかりですね」
メンヘラもヤンデレも基本的に心を病んでいる。
今は幸せいっぱいだが、バランスを崩せばどうなることか。
不穏な未来を想像してしまい、ペリーウィンクルはゾワリと肩を震わせた。
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