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三章
82 ミントとローズマリーのお茶③
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「トゥルシー様は、いらっしゃるでしょうか……」
ガゼボの外を見ながらペリーウィンクルが不安そうに言うと、ディルが不敵にニヤリと笑む。
「来るさ」
今回、トゥルシーを連れてくるのはシナモンの役目になっている。
花泥棒についての事情聴取をするという名目で、連れてくる手筈になっているのだ。
「来ないわけがない。大事なリコリス嬢のためなら、退学だって受け入れるつもりなのだから」
そう言うディルは、先ほどまでの不敵な笑みがうそのような、自虐めいた表情を浮かべていた。面白くない、とその顔に書いてあるようである。
その表情を見て、ペリーウィンクルは違和感を覚えた。
少し前はトゥルシーのことを観察対象としてしか見ていないように思えたのだが、何か変化があったらしい。
独占欲のようなものを感じて、ペリーウィンクルは「おやおや」と笑いそうになった。
そして、変化はもう一つ。
彼は、トゥルシーの紺色の目によく似た、スイートピーの花束を持参していた。
少し前に、ローズマリーから「花は愛する人へ贈るもの」と言われたばかりである。
ということは、この花束はトゥルシーへの贈り物ということなのだろう。まさか、ペリーウィンクルの青紫色の髪に合わせたわけではあるまい。
(花言葉はいろいろあるけれど……私を忘れないで、という意味かしら)
そう考えると自虐めいた顔も拗ねているように見えて、微笑ましく思えてくる。
ペリーウィンクルはわかりきったことだとわかっていたが、聞かずにはいられなかった。
「ディル様は……トゥルシー様が元に戻ったらどうするおつもりなのですか?」
「観察するだけ」
「それだけなのですか?」
ペリーウィンクルは、ローズマリーが以前ディルへ問いかけた時のように、彼を見た。
キャンドルの灯りで変幻する不思議な色をした目に見つめられ、ディルは居心地悪そうに身動ぎする。
「……はぁ。さすが、ローズマリー嬢の専属庭師。彼女によく似ている」
「お褒めいただき、光栄ですわ」
ペリーウィンクルはメイド服をちょんと持ち上げ、貴族令嬢のまねをするようにあいさつをした。
そんな彼女へ「褒めていない」と文句を言いながら、ディルは観念したように言う。
「お察しの通りだよ。僕は彼女の恋人に立候補するつもりだ」
不満そうに顔を歪ませているが、トゥルシーへの恋情は隠しもしない。
きっとその耳は、彼女の足音が近づいてくるのを今か今かと待っているのだろう。
ゲームでは見られなかった彼の素晴らしい一面を見られて、ペリーウィンクルは心の中で拳を突き上げて喜んだ。
ガゼボの外を見ながらペリーウィンクルが不安そうに言うと、ディルが不敵にニヤリと笑む。
「来るさ」
今回、トゥルシーを連れてくるのはシナモンの役目になっている。
花泥棒についての事情聴取をするという名目で、連れてくる手筈になっているのだ。
「来ないわけがない。大事なリコリス嬢のためなら、退学だって受け入れるつもりなのだから」
そう言うディルは、先ほどまでの不敵な笑みがうそのような、自虐めいた表情を浮かべていた。面白くない、とその顔に書いてあるようである。
その表情を見て、ペリーウィンクルは違和感を覚えた。
少し前はトゥルシーのことを観察対象としてしか見ていないように思えたのだが、何か変化があったらしい。
独占欲のようなものを感じて、ペリーウィンクルは「おやおや」と笑いそうになった。
そして、変化はもう一つ。
彼は、トゥルシーの紺色の目によく似た、スイートピーの花束を持参していた。
少し前に、ローズマリーから「花は愛する人へ贈るもの」と言われたばかりである。
ということは、この花束はトゥルシーへの贈り物ということなのだろう。まさか、ペリーウィンクルの青紫色の髪に合わせたわけではあるまい。
(花言葉はいろいろあるけれど……私を忘れないで、という意味かしら)
そう考えると自虐めいた顔も拗ねているように見えて、微笑ましく思えてくる。
ペリーウィンクルはわかりきったことだとわかっていたが、聞かずにはいられなかった。
「ディル様は……トゥルシー様が元に戻ったらどうするおつもりなのですか?」
「観察するだけ」
「それだけなのですか?」
ペリーウィンクルは、ローズマリーが以前ディルへ問いかけた時のように、彼を見た。
キャンドルの灯りで変幻する不思議な色をした目に見つめられ、ディルは居心地悪そうに身動ぎする。
「……はぁ。さすが、ローズマリー嬢の専属庭師。彼女によく似ている」
「お褒めいただき、光栄ですわ」
ペリーウィンクルはメイド服をちょんと持ち上げ、貴族令嬢のまねをするようにあいさつをした。
そんな彼女へ「褒めていない」と文句を言いながら、ディルは観念したように言う。
「お察しの通りだよ。僕は彼女の恋人に立候補するつもりだ」
不満そうに顔を歪ませているが、トゥルシーへの恋情は隠しもしない。
きっとその耳は、彼女の足音が近づいてくるのを今か今かと待っているのだろう。
ゲームでは見られなかった彼の素晴らしい一面を見られて、ペリーウィンクルは心の中で拳を突き上げて喜んだ。
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