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三章

66 妖精と番②

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 妖精は、あらゆるものから生まれてくる。
 一人きりで生まれ、消える時も一人きり。
 生まれてすぐの頃は似た属性の妖精が世話をするが、ひとり立ちすればまた一人きり。
 たまに群れることもあるが、ほとんどは一人きりだ。
 孤独など感じないし、それが気楽で良いと思っている。

 ただ稀に、そうじゃない妖精も存在する。
 人の姿にもなれる妖精だ。

 人の姿にもなれる──それはつまり、人と混じり合いたいという証だ。
 具体的に言えば、抱きしめたり、キスをしたり、それ以上を求めたり。人が種の保存をするために行うことを、妖精の自分ともしてほしいと思った時、妖精は人の姿もとれるようになるのである。

 人と違って種の保存を目的とはしていないから、子をなしたいわけではない。
 結果として子が生まれることもあるが、それはおまけみたいなものだ。
 とはいえ、人が子を大事にする生き物だと理解しているから、相手が求めるならいてもいいかな、くらいの感覚である。

 人はそれを恋や愛と呼ぶが、妖精からしてみればそんな甘っちょろいものではない。
 気まぐれで面倒くさがりなくせに、常に気になって仕方がなくなり、困っているなら助けずにはいられなくなり、目が届かないと心配で夜も眠れず、無視されたり要らないなんて言われた日には死にそうになる。

 妖精の生死が、人の態度一つで決まるのだ。そんな重いもの、恋や愛なんて言葉で収まるわけがない。

 魅了や服従といった魔法による症状なら、改善の余地もある。
 だが、魔法じゃないから、たちが悪かった。

 妖精は、そんな思いにさせてくる人のことを、つがいと呼ぶ。
 相手と離されると身を引き裂かれるような思いをすることから、きっと元は一つだったに違いないと考えて、二人で一つ、つまり番だ、ということになったらしい。

 番は、前置きもなく唐突に決まる。
 経験者曰く、感覚的には“選ぶ”らしい。

 目が離せなくなって、世界にその人と自分しかいないような気持ちになって、倒れそうなくらい体が熱くなって、ふと気づくと人の姿になっている。
 はじめて人の姿を取った時、その目に映っている相手が番だ。

 出会い頭だったり、ある程度知り合ってからだったり、相手が死の間際だったりとさまざまではあるが、ヴィアベルは幸いなことに、ある程度知り合ってからだった。

 相手は契約していた男の孫で、両親を事故でうしなった女の子。
 毎日毎日飽きもせずメソメソ泣いて、何にでも怯えてばかりの、ヴィアベルからしてみたら、近寄りたくない人ナンバーワンだった。
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