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三章

61 カモミールとローズヒップのお茶③

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「ん」

 ペリーウィンクルのものよりも大きな手のひらの上に、信じられないくらい大きな宝石がでんとのっている。

(な、なに……?)

 ペリーウィンクルは、ローズマリーの小さな手にも収まるようなサイズの宝石しか知らなかったから、目の前のそれが本当に宝石なのかどうかも怪しいと思った。
 そして、差し出されている理由も思い当たらない。

 引き攣った笑みを浮かべてペリーウィンクルが来訪者を見ると、彼はまた「ん」と言って宝石をさらに前へ突き出してきた。
 ペリーウィンクルの視界いっぱいに、宝石が映る。

「……は?」

「賄賂だ。前払い」

「……」

 どこの世界に、公衆の面前で賄賂を渡すやつがいるのだろう。
 放課後になったばかりの今の時間、廊下に彼しかいなかったのは救いだろうか。
 自問自答し、目の前にいる事実を改めて確認していると、扉をふさぐように立っていた男の影から、ローズマリーがひょこりと顔を覗かせた。

「あらあら。ディル様ではございませんか。わたくしの専属庭師に何を渡そうとしているのですか? 賄賂だなんて、穏やかではありませんわね」

「いたのか、ローズマリー嬢」

「ええ、おりましたわ」

「見なかったことに……」

「そういうわけにはまいりませんわ。さぁさぁ、こんな所で立ち話もなんですから、入ってくださいませ。ペリー、ディル様にもお茶の用意をお願いね」

 ローズマリーはそう言うと、さっさとディルの背中を押して部屋に入ってしまった。
 ペリーウィンクルは反射的に「かしこまりました」と答えたが、次の瞬間「んぇぇ⁉︎」と素っ頓狂な声を上げる。

 だって、ダメだ。
 ここは女子専用の寮で、婚約者であるソレルならまだしも、なんでもない男を招き入れて良いところではない。

「お、お嬢様⁉︎」

 慌てて部屋へ取って返したペリーウィンクルに、ローズマリーはニッコリと愛らしい微笑みを浮かべて言い放った。

「さぁペリー、出番よ。ディル様の趣味を邪魔する不届き者をこらしめてやりなさい!」

 正義の味方みたいなセリフだが、ローズマリーは悪役令嬢である。

悪役令嬢トゥルシー様がダメなら、攻略キャラディル様ですか……そうですか……さすがです、お嬢様)

 手段を選ばないあたり、悪役っぽくて最高である。
 ペリーウィンクルは遠い目をしながら、ディルへお茶を出すために湯を沸かし直した。
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