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二章
52 セントジョンズワートの軟膏③
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ペリーウィンクルは気配を消してこっそりとサントリナへ近づいた。
茂み越しに腕を伸ばして、小さな包みと赤いガーベラをベンチへ置き、小さな声でサントリナを呼ぶ。
「サントリナ様」
「その声は、ペリーウィンクルさんかい? 茂みに隠れたりして……かくれんぼでもしているのかな?」
「いえ、違いますよ。ローズマリーお嬢様から、お守りを預かってきました。友人関係から恋人に進展させたい、愛の告白をしたい時に持ち主を応援してくれる石が入っているそうです」
「ローズマリー様が……?」
「はやくニゲラ様とくっつけと、それはもう鬱陶し……いえ、熱心に応援されていまして。それから、僭越ながら私からも贈り物を。そのガーベラは、私が精魂込めて育てた一本です。きっと、サントリナ様の気持ちに答えてくれるはずですよ」
「大事な花を……いいのかい?」
「庭師の私にできることは、それくらいですから」
茂み越しにグッドラックと親指を立ててみせたら、サントリナはようやく覚悟を決めたようだった。
息を吸って、吐いて。胸を押さえているのは、心臓が飛び出しそうだからだろう。
なぜ恋をしたこともない自分が、サントリナの行動を理解できるのか。
思い当たった理由に頰を赤らめて、ペリーウィンクルは考えを打ち消すように頭を振った。
(もう! なんでヴィアベルが出てくるのよ!)
もしかしたら、おかしいのはヴィアベルではなくペリーウィンクルなのかもしれない。
(ヴィアベル相手に赤面するなんて……ないわ)
茂みに隠れながら一人悶絶していると、サントリナが立ち上がった。
ローズマリーからのお守りと、ペリーウィンクルからのガーベラ、そしてお手製の軟膏を持った彼女は、勇ましい戦女神のような顔をしてニゲラの所へ歩いて行く。
「にっニゲラ!」
「うおっ⁉︎ なんだ、いきなり。何か用か」
茂みから、二人の様子は見えない。
聞こえてくる会話に耳を済ませ、ペリーウィンクルはその時を待った。
「先ほどの鍛錬で、ボクの剣が腕を掠めただろう? 軟膏を塗ってやるから、出せ!」
かわいげのない言葉だ。
恥ずかしいのはわかるが、ニゲラに女性らしさをアピールできるものではない。
「はぁ? んなの、舐めとけば治る……」
案の定、ニゲラは男友達へ接するように答えた。
「ボクが、作ったの……!」
「サントリナが、軟膏を? 意外だな」
「そうかな? ボクだって女だもの。おかしいことじゃないでしょう?」
「そ、そうか。そう、だよな。俺の婚約者なんだから、女、なんだよな」
目から鱗が落ちた。
もしくは、呪いが解けた。
ニゲラの反応は、そんな表現がふさわしいものだった。
サントリナ、と。彼女の名を呼ぶ声に、あたたかな色が混じり始める。
ペリーウィンクルはうまく行ったことにホッと胸を撫で下ろしながら、その場を離れた。
鍛錬場の入り口に『只今整備中』の看板をかけるのも忘れない。
(ローズマリーお嬢様! そして、ヴィアベル! 私はやりましたよぉぉぉぉ!)
嬉しそうにスキップするペリーウィンクルの背後でキラリと光るものがあったが、ローズマリーに報告することで頭がいっぱいの彼女が気付くことはなかった。
茂み越しに腕を伸ばして、小さな包みと赤いガーベラをベンチへ置き、小さな声でサントリナを呼ぶ。
「サントリナ様」
「その声は、ペリーウィンクルさんかい? 茂みに隠れたりして……かくれんぼでもしているのかな?」
「いえ、違いますよ。ローズマリーお嬢様から、お守りを預かってきました。友人関係から恋人に進展させたい、愛の告白をしたい時に持ち主を応援してくれる石が入っているそうです」
「ローズマリー様が……?」
「はやくニゲラ様とくっつけと、それはもう鬱陶し……いえ、熱心に応援されていまして。それから、僭越ながら私からも贈り物を。そのガーベラは、私が精魂込めて育てた一本です。きっと、サントリナ様の気持ちに答えてくれるはずですよ」
「大事な花を……いいのかい?」
「庭師の私にできることは、それくらいですから」
茂み越しにグッドラックと親指を立ててみせたら、サントリナはようやく覚悟を決めたようだった。
息を吸って、吐いて。胸を押さえているのは、心臓が飛び出しそうだからだろう。
なぜ恋をしたこともない自分が、サントリナの行動を理解できるのか。
思い当たった理由に頰を赤らめて、ペリーウィンクルは考えを打ち消すように頭を振った。
(もう! なんでヴィアベルが出てくるのよ!)
もしかしたら、おかしいのはヴィアベルではなくペリーウィンクルなのかもしれない。
(ヴィアベル相手に赤面するなんて……ないわ)
茂みに隠れながら一人悶絶していると、サントリナが立ち上がった。
ローズマリーからのお守りと、ペリーウィンクルからのガーベラ、そしてお手製の軟膏を持った彼女は、勇ましい戦女神のような顔をしてニゲラの所へ歩いて行く。
「にっニゲラ!」
「うおっ⁉︎ なんだ、いきなり。何か用か」
茂みから、二人の様子は見えない。
聞こえてくる会話に耳を済ませ、ペリーウィンクルはその時を待った。
「先ほどの鍛錬で、ボクの剣が腕を掠めただろう? 軟膏を塗ってやるから、出せ!」
かわいげのない言葉だ。
恥ずかしいのはわかるが、ニゲラに女性らしさをアピールできるものではない。
「はぁ? んなの、舐めとけば治る……」
案の定、ニゲラは男友達へ接するように答えた。
「ボクが、作ったの……!」
「サントリナが、軟膏を? 意外だな」
「そうかな? ボクだって女だもの。おかしいことじゃないでしょう?」
「そ、そうか。そう、だよな。俺の婚約者なんだから、女、なんだよな」
目から鱗が落ちた。
もしくは、呪いが解けた。
ニゲラの反応は、そんな表現がふさわしいものだった。
サントリナ、と。彼女の名を呼ぶ声に、あたたかな色が混じり始める。
ペリーウィンクルはうまく行ったことにホッと胸を撫で下ろしながら、その場を離れた。
鍛錬場の入り口に『只今整備中』の看板をかけるのも忘れない。
(ローズマリーお嬢様! そして、ヴィアベル! 私はやりましたよぉぉぉぉ!)
嬉しそうにスキップするペリーウィンクルの背後でキラリと光るものがあったが、ローズマリーに報告することで頭がいっぱいの彼女が気付くことはなかった。
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