上 下
52 / 122
二章

52 セントジョンズワートの軟膏③

しおりを挟む
 ペリーウィンクルは気配を消してこっそりとサントリナへ近づいた。
 茂み越しに腕を伸ばして、小さな包みと赤いガーベラをベンチへ置き、小さな声でサントリナを呼ぶ。

「サントリナ様」

「その声は、ペリーウィンクルさんかい? 茂みに隠れたりして……かくれんぼでもしているのかな?」

「いえ、違いますよ。ローズマリーお嬢様から、お守りを預かってきました。友人関係から恋人に進展させたい、愛の告白をしたい時に持ち主を応援してくれる石が入っているそうです」

「ローズマリー様が……?」

「はやくニゲラ様とくっつけと、それはもう鬱陶し……いえ、熱心に応援されていまして。それから、僭越せんえつながら私からも贈り物を。そのガーベラは、私が精魂込めて育てた一本です。きっと、サントリナ様の気持ちに答えてくれるはずですよ」

「大事な花を……いいのかい?」

「庭師の私にできることは、それくらいですから」

 茂み越しにグッドラックと親指を立ててみせたら、サントリナはようやく覚悟を決めたようだった。
 息を吸って、吐いて。胸を押さえているのは、心臓が飛び出しそうだからだろう。

 なぜ恋をしたこともない自分が、サントリナの行動を理解できるのか。
 思い当たった理由に頰を赤らめて、ペリーウィンクルは考えを打ち消すように頭を振った。

(もう! なんでヴィアベルが出てくるのよ!)

 もしかしたら、おかしいのはヴィアベルではなくペリーウィンクルなのかもしれない。

(ヴィアベル相手に赤面するなんて……ないわ)

 茂みに隠れながら一人悶絶していると、サントリナが立ち上がった。
 ローズマリーからのお守りと、ペリーウィンクルからのガーベラ、そしてお手製の軟膏を持った彼女は、勇ましい戦女神のような顔をしてニゲラの所へ歩いて行く。

「にっニゲラ!」

「うおっ⁉︎ なんだ、いきなり。何か用か」

 茂みから、二人の様子は見えない。
 聞こえてくる会話に耳を済ませ、ペリーウィンクルはその時を待った。

「先ほどの鍛錬で、ボクの剣が腕を掠めただろう? 軟膏を塗ってやるから、出せ!」

 かわいげのない言葉だ。
 恥ずかしいのはわかるが、ニゲラに女性らしさをアピールできるものではない。

「はぁ? んなの、舐めとけば治る……」

 案の定、ニゲラは男友達へ接するように答えた。

「ボクが、作ったの……!」

「サントリナが、軟膏を? 意外だな」

「そうかな? ボクだって女だもの。おかしいことじゃないでしょう?」

「そ、そうか。そう、だよな。俺の婚約者なんだから、女、なんだよな」

 目から鱗が落ちた。
 もしくは、呪いが解けた。

 ニゲラの反応は、そんな表現がふさわしいものだった。
 サントリナ、と。彼女の名を呼ぶ声に、あたたかな色が混じり始める。

 ペリーウィンクルはうまく行ったことにホッと胸を撫で下ろしながら、その場を離れた。
 鍛錬場の入り口に『只今整備中』の看板をかけるのも忘れない。

(ローズマリーお嬢様! そして、ヴィアベル! 私はやりましたよぉぉぉぉ!)

 嬉しそうにスキップするペリーウィンクルの背後でキラリと光るものがあったが、ローズマリーに報告することで頭がいっぱいの彼女が気付くことはなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

転生悪役令嬢、物語の動きに逆らっていたら運命の番発見!?

下菊みこと
恋愛
世界でも獣人族と人族が手を取り合って暮らす国、アルヴィア王国。その筆頭公爵家に生まれたのが主人公、エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌだった。わがまま放題に育っていた彼女は、しかしある日突然原因不明の頭痛に見舞われ数日間寝込み、ようやく落ち着いた時には別人のように良い子になっていた。 エリアーヌは、前世の記憶を思い出したのである。その記憶が正しければ、この世界はエリアーヌのやり込んでいた乙女ゲームの世界。そして、エリアーヌは人族の平民出身である聖女…つまりヒロインを虐めて、規律の厳しい問題児だらけの修道院に送られる悪役令嬢だった! なんとか方向を変えようと、あれやこれやと動いている間に獣人族である彼女は、運命の番を発見!?そして、孤児だった人族の番を連れて帰りなんやかんやとお世話することに。 果たしてエリアーヌは運命の番を幸せに出来るのか。 そしてエリアーヌ自身の明日はどっちだ!? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...