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二章

45 黄色いウサギの夢②

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「それで……あの……その特別な栄養剤は譲ってもらえるのでしょうか?」

 おずおずと問いかけてくるウサギに、ペリーウィンクルの興奮も少し落ち着ついたようだ。
 どこか探るような目で見てくるペリーウィンクルに、ウサギは息をひそめて答えを待つ。

(このウサギがヒロインと契約した妖精なら。わたしの大事な花っていうのは、ヒロインのことか、ヒロインの箱庭の花ってことよね、たぶん。うーん……駄目元で言ってみようか? 言うだけなら、タダだし)

 かわいいウサギを騙すようで忍びない。
 だけど、もしもこのウサギがスヴェートならば、絶好の機会だ。
 ペリーウィンクルはウサギの視線に目を合わせるようにしゃがみ込むと、ヒクヒクしている鼻を見つめながら言った。

「ねぇ、ウサギさん」

「はいっ! なんでしょうか、ペリーウィンクル様!」

「栄養剤を譲ったら、あなたは代わりに何かくれるの? 譲るのは構わないけれど、見ず知らずのウサギさんに優しくするいわれはないから、対価がほしいわ」

 まるで悪徳商人のようだ。
 我ながらひどいことを言っていると思いながらペリーウィンクルが待っていると、ウサギはプルプル震えながら「もちろんですっ」と答えた。

「対価に何をご用意すればよろしいですか?」

「なんでもいいの?」

「わたしに叶えられることならば、なんなりと!」

 まるでランプの魔人のようなことを言う。
 こんなことを迂闊うかつに言うから、妖精を魔法の道具のように思う人間が後を絶たないのではないだろうか。

(スヴェートのおばかさん)

 それが、かわいくもあるのだが。
 ペリーウィンクルにとっては好都合である。

「じゃあさ──」

 ペリーウィンクルの提示した対価。
 それを聞いたウサギは、なんの躊躇いもなく、

「承りました。必ずや、導きましょう。前払いになってしまいますが、物置に置いてある栄養剤を全て頂いてもよろしいでしょうか?」

 と言った。
 ペリーウィンクルが「それでいいよ」と言うと、ウサギは前脚を合わせて祈るように彼女へ感謝を述べる。

 律義なウサギだ。ペリーウィンクルに利用されたとも知らないで。
 去りながら何度も振り返っては礼を言うものだから、ペリーウィンクルの方が罪悪感でいっぱいになりそうである。

 翌朝目覚めたペリーウィンクルは、もちろん夢のことなんて何も覚えていなかった。
 物置にあった栄養剤が全て無くなっているのを見ても、「ヴィアベルが使ったのかなぁ」と呟くだけだった。
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