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二章

42 ヒロインの箱庭①

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 おおせのままに──なんてかしこまって言ってみたが、結果はお粗末なものだった。
 肩透かし。
 まさに、それである。

 ヴィアベルがリコリスを見張っている間に、ペリーウィンクルが彼女の箱庭を見たところ、ローズマリーの箱庭にあったものと同種のハニーサックルが咲いていたのだ。

 リコリスの箱庭を一目見たペリーウィンクルは、

「うわっ。逆ハーレムルート狙い撃ちじゃん」

 と、呆れてしまうような光景だった。
 秘密任務中だというのに、思わず大声を出してしまうほどである。

「いや、でも……いくらなんでも、ひどすぎやしない?」

 リコリスの箱庭には、攻略キャラクターたちがそれぞれ好む花が植えられている。
 どれもこれも、ペリーウィンクルが丹精込めて世話をしたものより、はるかに品質が劣るものばかり。

(こんなものを贈ったら、悪役令嬢ライバルの好感度が上がりそうだけど……)

 それなのにどうして、ニゲラやシナモンは彼女の手に落ちたのか。

(いや、こうだったからシナモン様はセリ様のものになったのかな?)

 だとすれば、雨降って地固まるといった風に、ニゲラとサントリナもどうにかなるのではないか。
 心底、不思議である。
 だがしかし、それ以上にペリーウィンクルには気になることがあった。

 目の前の花たちだ。
 リコリスの箱庭にある花は、いつ枯れてもおかしくない状態だった。
 満足に水やりもされていない。
 雑草もポツポツと生えているし、明らかに手を抜かれている。

「毎日の水やりは、義務でしょうに」

 逆ハーレムだかなんだか知らないが、男を追いかけるより前に、箱庭を整えるべきだ。
 本来、スルスは男を籠絡する場ではなく、学びの場なのだから。

「男を追いかけるので忙しいなら、対価を払って妖精たちに頼めば良いのに」

 スルスには、対価を払えば水やりや草取りをしてくれる妖精がいる。
 お金だったりお菓子だったりミルクだったりと対価はさまざまだが、ケチらなければ十分働いてくれるのだ。

「それさえもしないなんて……ヒロインはやる気あるの?」

 恋愛にしか興味がないのだろうか。
 確かにこの世界は乙女ゲームの世界だが、そればっかりで大丈夫なのかと心配になってくる。

 もちろん、リコリスのことを心配しているわけではない。
 春の国の未来の王妃が、恋愛至上主義のポンコツだったらどうしようという心配だ。

「やめてよね。愛憎渦巻く王宮とか、考えたくもないわ」

 不意に、某王妃が言ったとか言わなかったとか言われているセリフにそっくりな、出会う前のローズマリーが言った、

『クッキーがなければケーキを食べれば良いわ! さぁ早く、持ってきなさい!』

 というセリフが蘇ったが、ペリーウィンクルはそっとなかったことにした。
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