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二章

40 バラジャムの紅茶②

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「それで、ペリー。あなた、花泥棒に心当たりはありますの?」

 ローズマリーの箱庭は、彼女自身よりも専属庭師であるペリーウィンクルの方がくわしい。
 そう思ったからこその質問だったのだが、問われたペリーウィンクルは、どう答えるべきかと考えあぐねているようだった。

 ローズマリーに言いたくないことがあるのか、それともセリやサントリナに聞かせたくないことなのか。
 わりとなんでもあけすけに物を言う彼女がこんな風になることは珍しく、何があったのかしらとローズマリーは興味津々である。

 まさか花泥棒に恋をしたのでは、とローズマリーが年頃の女の子らしい発想に至ったところで、ペリーウィンクルは言いづらそうに「その……」と口を開いた。

「私が直接現場を見たわけではないので定かではありませんが……妖精たちのうわさによれば、最近、ニゲラ様から甘い香りがするのだとか。その香りのせいでニゲラ様と契約している妖精が、ほとほと困っていると聞きました」

 ペリーウィンクルの話を聞いて、ローズマリーとセリは「あらまぁ」と感嘆の声を漏らした。
 どうして彼女たちがそんな声を出したのかわからず、ペリーウィンクルはきょとんとした顔をしてから、困ったように視線を泳がせる。

(ここは‘’あらまぁ”じゃなくて‘’まさか、そんな”とかじゃない? なんで二人は感心したように私を見ているんだろう?)

 ペリーウィンクルは知らない。
 彼女は幼い頃からヴィアベルの庇護下にあったので当たり前になっているが、妖精のうわさ話を聞ける庭師は、ごくわずかしか存在しないのだ。

 妖精のうわさ話を聞けるということは、それだけ妖精たちに信頼されているということ。
 すなわち、難関と言われている庭師の資格を持つ者の中でも、さらにエリートだということである。

 ローズマリーとセリは、その稀な庭師がペリーウィンクルだったことに驚いたのだ。
 どこにでもいそうな平々凡々とした少女。ただのモブだと思ったが、とんだチートである。
 妖精王の茶会の準備を任されたのも、そういう背景があったからに違いない。

 素知らぬ顔で紅茶のカップに口をつけながら、ローズマリーは思う。
 ペリーウィンクルはただのモブなのだろうか、と。

 思案するローズマリーに、憧れの存在を見たような顔をしているセリ、そして困惑するペリーウィンクル。
 そんな彼女たちを前にして、それまで沈黙を貫いていたサントリナが、ようやく口を開いた。
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