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一章
15 ヒロインのうわさ①
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入寮も入学も滞りなく終わり、今日からローズマリーたちは学校生活が始まる。
庭師兼メイドとしてついてきたペリーウィンクルは、主人であるローズマリーが学校へ行っている間、庭師としての仕事に取り掛かっていた。
「ローズマリーお嬢様の好みは八重咲きのミニバラだけど……ソレル様の好みに合わせるなら、大輪の白バラは欠かせないし……」
妖精使い養成学校・スルスでは、生徒一人一人に箱庭が与えられる。
妖精使いたる者、妖精が好む環境を整えよ、ということらしい。
箱庭とは小さな箱の中に庭を作ることを言うが、実際には花壇と同じだ。
公爵家の令嬢として、そして春の国第一王子の婚約者として、ローズマリーの箱庭は誰に見せても恥ずかしくないものを造らなくてはならない。
最終目的は婚約破棄ではあるけれど、彼女が今まで築き上げてきた貴族令嬢としての矜恃を、つぶすわけにはいかないからだ。
「うーん……責任重大だわ」
ペリーウィンクルがうんうんうなりながらローズマリーの箱庭をいじっていると、ふと影が落ちる。
なんだと思って顔を上げてみると、ヴィアベルの長身が、ペリーウィンクルに当たる日光を遮っているところだった。
ぬ、と背を屈めながら、ヴィアベルはやや不機嫌そうな顔をしている。
「おまえは女の子なのだから、帽子くらい被れ」
そう言って、ヴィアベルは持ってきていた帽子をペリーウィンクルに被せた。
ついでとばかりに、帽子ごと頭を撫でられる。
(いつまで子ども扱いするのかしら……もう)
目深に被らされた長いつばのある麦わら帽子を斜めにしながら、ペリーウィンクルは不満げにヴィアベルを見上げた。
そんな彼女の白い肌に日焼け止めすら塗られていないと気づいたヴィアベルは、呆れたようにため息を吐く。
「日焼け止めも塗っていないのか」
ペリーウィンクルの無言の圧力に気づいているのか、それともあえて無視しているのか。
ヴィアベルは構わず、指をくるりと回して妖精魔法で日焼け止めを塗ってやった。
「おまえは昔から肌が弱いのだから、気をつけねば駄目ではないか」
彼の魔法はいつだって間違いなく完璧なのに、頰を触ってちゃんと塗れたか確認する始末である。
(あぁ……なんて過保護なのかしら)
ペリーウィンクルは、もともと構われるのが好きなたちだから、ヴィアベルに構われるのは心地良く感じてしまう。
世話を焼かれるのだってもちろん嬉しいのだが、いつまでも子ども扱いされるのはいただけない。
とはいえ、もう何年もこの調子できてしまったから、全然これっぽっちも親離れできる気がしない。
すると決めた以上、頑張るつもりではあるのだが。
「それで? 必要なのはパステルカラーのミニバラと大輪の白バラ……これだけで良かったのか?」
差し出された苗を、ペリーウィンクルは反射的に受け取った。
どれもこれも、文句のつけようもない綺麗な苗ばかり。
種や苗を選ぶことだって庭師の仕事だというのに、ヴィアベルは今日もペリーウィンクルを甘やかしてくる。
(これじゃあ、ちっとも親離れできない! ここはガツンと親離れ宣言しないと駄目だわ!)
「ヴィアベル、話が──」
決意に満ちた目で、ヴィアベルを睨むように見る。
そうして開いた口から発した声は、彼から被せるように「ところで」と言われてしまい、最後まで言いきることができなかった。
庭師兼メイドとしてついてきたペリーウィンクルは、主人であるローズマリーが学校へ行っている間、庭師としての仕事に取り掛かっていた。
「ローズマリーお嬢様の好みは八重咲きのミニバラだけど……ソレル様の好みに合わせるなら、大輪の白バラは欠かせないし……」
妖精使い養成学校・スルスでは、生徒一人一人に箱庭が与えられる。
妖精使いたる者、妖精が好む環境を整えよ、ということらしい。
箱庭とは小さな箱の中に庭を作ることを言うが、実際には花壇と同じだ。
公爵家の令嬢として、そして春の国第一王子の婚約者として、ローズマリーの箱庭は誰に見せても恥ずかしくないものを造らなくてはならない。
最終目的は婚約破棄ではあるけれど、彼女が今まで築き上げてきた貴族令嬢としての矜恃を、つぶすわけにはいかないからだ。
「うーん……責任重大だわ」
ペリーウィンクルがうんうんうなりながらローズマリーの箱庭をいじっていると、ふと影が落ちる。
なんだと思って顔を上げてみると、ヴィアベルの長身が、ペリーウィンクルに当たる日光を遮っているところだった。
ぬ、と背を屈めながら、ヴィアベルはやや不機嫌そうな顔をしている。
「おまえは女の子なのだから、帽子くらい被れ」
そう言って、ヴィアベルは持ってきていた帽子をペリーウィンクルに被せた。
ついでとばかりに、帽子ごと頭を撫でられる。
(いつまで子ども扱いするのかしら……もう)
目深に被らされた長いつばのある麦わら帽子を斜めにしながら、ペリーウィンクルは不満げにヴィアベルを見上げた。
そんな彼女の白い肌に日焼け止めすら塗られていないと気づいたヴィアベルは、呆れたようにため息を吐く。
「日焼け止めも塗っていないのか」
ペリーウィンクルの無言の圧力に気づいているのか、それともあえて無視しているのか。
ヴィアベルは構わず、指をくるりと回して妖精魔法で日焼け止めを塗ってやった。
「おまえは昔から肌が弱いのだから、気をつけねば駄目ではないか」
彼の魔法はいつだって間違いなく完璧なのに、頰を触ってちゃんと塗れたか確認する始末である。
(あぁ……なんて過保護なのかしら)
ペリーウィンクルは、もともと構われるのが好きなたちだから、ヴィアベルに構われるのは心地良く感じてしまう。
世話を焼かれるのだってもちろん嬉しいのだが、いつまでも子ども扱いされるのはいただけない。
とはいえ、もう何年もこの調子できてしまったから、全然これっぽっちも親離れできる気がしない。
すると決めた以上、頑張るつもりではあるのだが。
「それで? 必要なのはパステルカラーのミニバラと大輪の白バラ……これだけで良かったのか?」
差し出された苗を、ペリーウィンクルは反射的に受け取った。
どれもこれも、文句のつけようもない綺麗な苗ばかり。
種や苗を選ぶことだって庭師の仕事だというのに、ヴィアベルは今日もペリーウィンクルを甘やかしてくる。
(これじゃあ、ちっとも親離れできない! ここはガツンと親離れ宣言しないと駄目だわ!)
「ヴィアベル、話が──」
決意に満ちた目で、ヴィアベルを睨むように見る。
そうして開いた口から発した声は、彼から被せるように「ところで」と言われてしまい、最後まで言いきることができなかった。
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