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序章
09 親離れを決意②
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ヴィアベルは、ことあるごとにペリーウィンクルを中央の国へ誘う。
八百屋のおじさんがペリーウィンクルだけおまけしてくれなかったとか、男爵家はペリーウィンクルにお茶休憩もさせないとか、本当にささいな、どうでも良いようなことで。
心配されて、嬉しくないわけじゃない。
ヴィアベルはペリーウィンクルにとって、最後の家族とも言える存在だから。
離れていたって平気だけど、全然会えなくなるのは寂しい。
彼が熱心に誘うものだから、「そんなに心配なら行ってあげようか」と思ったこともある。
しかし。しかし、だ。
いざ調べてみると、そんなに簡単なことではないことが分かった。
ペリーウィンクルとしては、春の国から夏の国へ遊びに行くような感覚で考えていたのだが、そんなにお手軽な話ではなかったのだ。
四季の国と中央の国では、時間の流れが違う。
中央の国での一日は、四季の国での三日にあたる。
中央の国で一年生活する間に、四季の国では三年も経過してしまうのだ。
(浦島太郎ほどではないけれど、びっくりよね)
天涯孤独ではあっても、友人や知り合いがいないわけではない。
ペリーウィンクルが中央の国で暮らすうちに、周囲はどんどん老いていくなんて、悲しすぎる。
(ああ、でも……)
ローズマリーが、婚約破棄されて第二の人生を歩むまで手を貸す。
そう決めた以上、中央の国へ行かなくてはならないだろう。
ヴィアベルに頼んで契約してもらうか、別の妖精と契約するか、またはローズマリーの侍女としてついて行くのか。
行く方法はさまざまあるが──、
(中央の国へ行ったら、ヴィアベルは喜んでくれそう)
目が届く範囲にペリーウィンクルがいないと、心配でたまらない過保護な妖精だ。
一年という制約付きではあるけれど、それで少しは安心してくれるだろうか。
(ずっとはいられないけれど、一年なら。一緒にいてもいいかもしれない)
これは、良い機会のように思えた。
ペリーウィンクルが親離れするための、ヴィアベルが子離れするための機会。
それはつまり、ヴィアベルとの別れを意味する。
寂しいと思う。
けれどこのままでは、ヴィアベルはペリーウィンクルがおばあちゃんになっても、見守り続けそうな気がする。
長い寿命を持つ妖精からしてみたら、人間の寿命なんてほんの少しの時間だろう。
瞬きするくらいの一瞬とまではいかないが、ほんのちょっとなのは確かだ。
だからたぶん、そんなに負担にはなっていないはずだけれど、何も手につかなくなるほど心配させ続けてしまうのは、嫌だった。
「よし、決めた! 親離れしよう!」
中央の国にいる一年の間に、ローズマリーの婚約破棄への道のりを作り、第二の人生のプランを練る。
同時に、ヴィアベルから親離れする準備もする。
決めてしまえば、気持ちはスッキリした。
エイエイオーと拳を突き上げれば、気持ちは確固たるものになる。
「ぺ、ぺりぃいんくる、まだ、ですの……?」
声をかけられて、ペリーウィンクルははっと我に返った。
今はそんなことを決意している場合ではなかったのだ。
目の前では、出荷直前の丸々としたブタから子ブタになったローズマリーが、汗だくになりながら屋敷の敷地内を走っている。
ペリーウィンクルはそんな彼女の後ろを走りながら、「ピッピッ」とホイッスルを吹く係なのだ。
「ローズマリーお嬢様ぁぁ! あと三周したら朝ご飯ですからねぇぇ!」
「グフゥ! ま、まだ走りますの⁉︎」
「入学まで数ヵ月しかありませんからね! 少々手荒ですが、スローライフのためだと思って辛抱してくださいませぇぇ」
「わ、わかりましたわぁぁぁぁぁ!」
食事前の運動は、減量したい人におすすめだ。
さらに効果を上げるには、筋力トレーニングも欠かせない。
そこへ妖精の魔法が入ったハーブティーを追加することで、ダイエットが加速度的に進む、というわけだ。
「朝ごはんはシェフが腕によりをかけていますので、楽しみにしていてくださいね!」
「楽しみですわぁぁぁ……グフゥ……」
今朝も公爵家の屋敷は賑やかだ。
高らかに鳴り響くホイッスルの音に、屋敷の者たちは密かにエールを送った。
どうかそのままお嬢様を改心させてくださいまし、と。
八百屋のおじさんがペリーウィンクルだけおまけしてくれなかったとか、男爵家はペリーウィンクルにお茶休憩もさせないとか、本当にささいな、どうでも良いようなことで。
心配されて、嬉しくないわけじゃない。
ヴィアベルはペリーウィンクルにとって、最後の家族とも言える存在だから。
離れていたって平気だけど、全然会えなくなるのは寂しい。
彼が熱心に誘うものだから、「そんなに心配なら行ってあげようか」と思ったこともある。
しかし。しかし、だ。
いざ調べてみると、そんなに簡単なことではないことが分かった。
ペリーウィンクルとしては、春の国から夏の国へ遊びに行くような感覚で考えていたのだが、そんなにお手軽な話ではなかったのだ。
四季の国と中央の国では、時間の流れが違う。
中央の国での一日は、四季の国での三日にあたる。
中央の国で一年生活する間に、四季の国では三年も経過してしまうのだ。
(浦島太郎ほどではないけれど、びっくりよね)
天涯孤独ではあっても、友人や知り合いがいないわけではない。
ペリーウィンクルが中央の国で暮らすうちに、周囲はどんどん老いていくなんて、悲しすぎる。
(ああ、でも……)
ローズマリーが、婚約破棄されて第二の人生を歩むまで手を貸す。
そう決めた以上、中央の国へ行かなくてはならないだろう。
ヴィアベルに頼んで契約してもらうか、別の妖精と契約するか、またはローズマリーの侍女としてついて行くのか。
行く方法はさまざまあるが──、
(中央の国へ行ったら、ヴィアベルは喜んでくれそう)
目が届く範囲にペリーウィンクルがいないと、心配でたまらない過保護な妖精だ。
一年という制約付きではあるけれど、それで少しは安心してくれるだろうか。
(ずっとはいられないけれど、一年なら。一緒にいてもいいかもしれない)
これは、良い機会のように思えた。
ペリーウィンクルが親離れするための、ヴィアベルが子離れするための機会。
それはつまり、ヴィアベルとの別れを意味する。
寂しいと思う。
けれどこのままでは、ヴィアベルはペリーウィンクルがおばあちゃんになっても、見守り続けそうな気がする。
長い寿命を持つ妖精からしてみたら、人間の寿命なんてほんの少しの時間だろう。
瞬きするくらいの一瞬とまではいかないが、ほんのちょっとなのは確かだ。
だからたぶん、そんなに負担にはなっていないはずだけれど、何も手につかなくなるほど心配させ続けてしまうのは、嫌だった。
「よし、決めた! 親離れしよう!」
中央の国にいる一年の間に、ローズマリーの婚約破棄への道のりを作り、第二の人生のプランを練る。
同時に、ヴィアベルから親離れする準備もする。
決めてしまえば、気持ちはスッキリした。
エイエイオーと拳を突き上げれば、気持ちは確固たるものになる。
「ぺ、ぺりぃいんくる、まだ、ですの……?」
声をかけられて、ペリーウィンクルははっと我に返った。
今はそんなことを決意している場合ではなかったのだ。
目の前では、出荷直前の丸々としたブタから子ブタになったローズマリーが、汗だくになりながら屋敷の敷地内を走っている。
ペリーウィンクルはそんな彼女の後ろを走りながら、「ピッピッ」とホイッスルを吹く係なのだ。
「ローズマリーお嬢様ぁぁ! あと三周したら朝ご飯ですからねぇぇ!」
「グフゥ! ま、まだ走りますの⁉︎」
「入学まで数ヵ月しかありませんからね! 少々手荒ですが、スローライフのためだと思って辛抱してくださいませぇぇ」
「わ、わかりましたわぁぁぁぁぁ!」
食事前の運動は、減量したい人におすすめだ。
さらに効果を上げるには、筋力トレーニングも欠かせない。
そこへ妖精の魔法が入ったハーブティーを追加することで、ダイエットが加速度的に進む、というわけだ。
「朝ごはんはシェフが腕によりをかけていますので、楽しみにしていてくださいね!」
「楽しみですわぁぁぁ……グフゥ……」
今朝も公爵家の屋敷は賑やかだ。
高らかに鳴り響くホイッスルの音に、屋敷の者たちは密かにエールを送った。
どうかそのままお嬢様を改心させてくださいまし、と。
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