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おまけ
難攻不落の騎士をおとす乙女②&お知らせ
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その乙女の存在を、世界でただ一人、レーヴだけが知っている。
漆黒の髪に黒玉のような目。パッとしない容貌だが、ジョージ好みの顔。
凹凸のない柔らかそうな体躯に、小生意気な喋り方が可愛らしくてたまらない。
ただ今、齢三歳の乙女の名前は、ニューシャ・オロバス。
デュークとレーヴの、愛娘である。
「ついでに、里帰りでもしろって書いてあったわ。ジョージとしては、ニューシャに会いたいのでしょうね」
「……じゃあ、嫌だ」
途端にヘソを曲げるデュークに、レーヴは苦笑いを浮かべた。
普段は威厳のある辺境伯だけれど、どうにも彼女の前では子供っぽくなる。
(そのギャップが可愛くてたまらないのだけれど)
レーヴはよしよしとデュークの頭を撫でた。
それだけで、彼の機嫌はコロリと良くなる。
もっと撫でてと馬のように頭を押し付けてくる単純な旦那様に、レーヴは「やっぱり、可愛い」と笑みを深めた。
デュークは、大好きなレーヴにそっくりな顔をしているニューシャを、レーヴの次に、大事にしている。一番ではないあたり、元獣人の執着心が透けて見えるようだ。
かつてデュークがそうであったように、彼もまた、娘の好いた男を試そうと決闘するのだろうか。
血湧き肉躍る試合を思い出して、レーヴはうっとりとため息を吐いた。
「あの時は、かっこよかったなぁ……」
ついうっかり、声に出ていたらしい。
視線を感じて隣を見れば、ジトリと物言いたげな視線とかち合う。
「デューク……?」
「今は……? 僕はもう、かっこよくない? 僕は今でも、こんなに君が愛しくて仕方がないのに」
デュークの黒い目が、ウルリと潤む。
これは、罠だ。嵌まってはいけない。
そう思うのに、捨てられた子犬のような目に、レーヴは抗えない。
「そういうわけじゃ……」
レーヴが戸惑っていると、デュークの手が彼女の腰に回った。
グッと引き寄せられて、彼女の体はあっという間にデュークの膝の上に乗せられる。
(相変わらず、鮮やかな手腕ね……)
軍事訓練を受けてそれなりに重いレーヴを、デュークは軽々と抱き上げる。
まるで壊れ物を扱うように、デュークの長い指がレーヴの唇を撫でた。
何度こうされただろう。
数え切れないくらいされたことがあるのに、レーヴの心はきゅうっとなった。
(きっと、昔を思い出したせいね……)
デュークのスッと通った鼻が、レーヴの小さな鼻にチョンと押し当てられる。
間近で見た彼の黒い目に、トロリとした恥ずかしい自分の顔が写っていた。
「……良い?」
ダメなんて言うわけがない。
だってレーヴは今だって、夫であるデュークを好いていて、そして愛しているのだから。
お互いを求めるように深いキスを繰り返していく。
思い出したように昔話をしながら、時々抱き合ってキスを交わして……。
レーヴはデュークの胸に頰を預けて、目を閉じた。
【お知らせ】
お久しぶりの魔獣の初恋。
こうして新しいお話を更新したのは、皆様にお知らせしたいことがあるからです。
先日、心優しい読者様から「他のカップルの話も読みたい」と感想を頂き、嬉しさのあまり、連載を決めました。
『魔獣の求恋~美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい~』
本日より連載スタートさせております。
『第13回恋愛小説大賞』にエントリーしているので、応援して頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします!
漆黒の髪に黒玉のような目。パッとしない容貌だが、ジョージ好みの顔。
凹凸のない柔らかそうな体躯に、小生意気な喋り方が可愛らしくてたまらない。
ただ今、齢三歳の乙女の名前は、ニューシャ・オロバス。
デュークとレーヴの、愛娘である。
「ついでに、里帰りでもしろって書いてあったわ。ジョージとしては、ニューシャに会いたいのでしょうね」
「……じゃあ、嫌だ」
途端にヘソを曲げるデュークに、レーヴは苦笑いを浮かべた。
普段は威厳のある辺境伯だけれど、どうにも彼女の前では子供っぽくなる。
(そのギャップが可愛くてたまらないのだけれど)
レーヴはよしよしとデュークの頭を撫でた。
それだけで、彼の機嫌はコロリと良くなる。
もっと撫でてと馬のように頭を押し付けてくる単純な旦那様に、レーヴは「やっぱり、可愛い」と笑みを深めた。
デュークは、大好きなレーヴにそっくりな顔をしているニューシャを、レーヴの次に、大事にしている。一番ではないあたり、元獣人の執着心が透けて見えるようだ。
かつてデュークがそうであったように、彼もまた、娘の好いた男を試そうと決闘するのだろうか。
血湧き肉躍る試合を思い出して、レーヴはうっとりとため息を吐いた。
「あの時は、かっこよかったなぁ……」
ついうっかり、声に出ていたらしい。
視線を感じて隣を見れば、ジトリと物言いたげな視線とかち合う。
「デューク……?」
「今は……? 僕はもう、かっこよくない? 僕は今でも、こんなに君が愛しくて仕方がないのに」
デュークの黒い目が、ウルリと潤む。
これは、罠だ。嵌まってはいけない。
そう思うのに、捨てられた子犬のような目に、レーヴは抗えない。
「そういうわけじゃ……」
レーヴが戸惑っていると、デュークの手が彼女の腰に回った。
グッと引き寄せられて、彼女の体はあっという間にデュークの膝の上に乗せられる。
(相変わらず、鮮やかな手腕ね……)
軍事訓練を受けてそれなりに重いレーヴを、デュークは軽々と抱き上げる。
まるで壊れ物を扱うように、デュークの長い指がレーヴの唇を撫でた。
何度こうされただろう。
数え切れないくらいされたことがあるのに、レーヴの心はきゅうっとなった。
(きっと、昔を思い出したせいね……)
デュークのスッと通った鼻が、レーヴの小さな鼻にチョンと押し当てられる。
間近で見た彼の黒い目に、トロリとした恥ずかしい自分の顔が写っていた。
「……良い?」
ダメなんて言うわけがない。
だってレーヴは今だって、夫であるデュークを好いていて、そして愛しているのだから。
お互いを求めるように深いキスを繰り返していく。
思い出したように昔話をしながら、時々抱き合ってキスを交わして……。
レーヴはデュークの胸に頰を預けて、目を閉じた。
【お知らせ】
お久しぶりの魔獣の初恋。
こうして新しいお話を更新したのは、皆様にお知らせしたいことがあるからです。
先日、心優しい読者様から「他のカップルの話も読みたい」と感想を頂き、嬉しさのあまり、連載を決めました。
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よろしくお願いします!
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