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おまけ
辺境伯とその婚約者②
しおりを挟む「なっ……も、もう、デューク!」
「たしかに。酸味があるから、肉料理にも合いそうだね」
うんうんと頷くデュークに、レーヴは子供のように頰をぷくりと膨らませていたが、鼻をくすぐる香ばしい匂いが石窯オーブンから漂ってきたのを知ると、あっさり気持ちを切り替える。
ガチャリと金具を外してオーブンの中を見れば、自慢の小麦粉で作った飾りパンがこんがりキツネ色に焼きあがっていた。
デュークから見えない位置にパンを置いたレーヴは、それを隅々までしっかりとチェックする。
パン生地で作った花や葉で彩られたプレートには、文字がついていた。
『結婚する?』
結婚しようじゃない辺り、恋愛に関してどこか気弱なレーヴらしい。
どこにも問題はないと確認し終えて、レーヴはさてどうしようと考えた。予定では、執務室へワゴンに載せた飾りパンを持って行って、サプライズでプロポーズをするつもりだったのだが、予定に反してデュークは背後にいるのである。
心の準備のための時間は、取れそうにない。
(ええーい!女は度胸!)
「レーヴ?パンがうまく焼けなかったの……って……えっ?」
覚悟を決めて振り返ったところで、レーヴの様子を見ようと屈みこんでいたデュークの鼻に、彼女の唇が当たる。
なかなかないレーヴからのキスに、デュークは分かりやすく興奮した。
彼女の焼いた飾りパンなど目もくれず、ギュッと抱きしめたかと思えば、欲望に忠実な手がレーヴのお尻をやわやわと揉みしだく。
「あ……デューク、あの、今は違くて……その、話が……」
レーヴの声なんて、もう睦言くらいにしか聞こえていないのだろう。黒い目は欲望に潤み、彼女の唇を物欲しげに見つめている。
「ごめん、レーヴ。止まれそうにないから、許して?」
(そんな顔、ずるい)
欲望に翳る端正な顔で、子供みたいに甘えておねだりされたらたまらない。
(あぁ、好き……)
調理台に押し倒され、首筋に噛み付くようにキスをされる。
何度されてもレーヴの体は素直にそれを受け入れて、与えられる全てが欲しいと、求めるようにデュークの背に手が回るのだ。
(プロポーズってむずかしい)
結局、デュークの腕の中でしつこいくらい愛を囁かれたレーヴはくったりしてしまって、プロポーズどころではなくなってしまった。
日を改めてプロポーズをしようと計画したのだが、デュークが悉く発情するせいで上手くいかず。最終的に、業を煮やしたジョージがデュークにお叱りの手紙を送り、なんとかデュークはプロポーズするに至った。
のちに、ジョージはげんなりとした顔で言う。
「あり得ない……生まれた子供が男の子だったらレーヴを取られちゃうかもしれないとか、あの顔でそれを言うか?あんな、魔王みたいな顔して……」
果たして二人の第一子はどちらだったのか。
それが分かるのは、二人が王都に戻って一年半後のことだが、マリーが歓喜したのは言うまでもない。
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