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九章 魔法使いに見送られて旅立つ二人
62 呪いの代償③
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「生きてるって……どうして君はそんな……僕のことなんて、放っておけば良かったんだ」
「あのままじゃあ、死んじゃうでしょ?」
「それでも良かった」
「私が呼んだら、出てきたくせに」
「だって、君の願いはなんでも叶えてあげたい」
「じゃあ、生きて欲しいっていう願いも叶えてよ」
ニヤリと笑って見せれば、デュークはポカンとしていた。
信じられないと見開かれた目から、涙が溢れる。
「……君は!どうして!せっかく僕が紳士らしく潔く身を引いたのに、どうしてそうなんだ!頑張って紳士らしくしているのに、君がそうだから、僕は、僕は……」
デュークは、悔しそうだ。泣きながら、怒っている。
レーヴはそれを眺めながら、嬉しさを噛み締めていた。
大人っぽくて子供っぽいと思っていた。けれどまさか努力して紳士らしくしているとは思ってもみなくて、思わぬ告白に胸がキュンとする。
(可愛い……)
撫で回して、頬ずりしたいくらいだ。
それくらい、デュークが可愛くて仕方がない。
「はは……頑張ってたんだ?」
「頑張ってたよ!僕なりに、精一杯!なのに、君が!」
「えっと、ごめんね?」
人になったデュークは獣人の時よりも感情豊かになったらしい。
泣きながら怒るという器用な感情表現をしながら、レーヴにひしっとしがみついてくる。
「謝って済む問題じゃないでしょ!」
感情豊かすぎて、レーヴは少々戸惑うくらいだ。嫌いじゃないけれど、ギャップが激しすぎて順応しきれない。
「君ときたら、僕をお姫様か何かと勘違いしていない?男なんだよ、男!良い格好させてよ!ピンチに駆けつけてなんとかしちゃうとか、王子様のすることだろう⁈カッコよくて、惚れ直すじゃないか!」
「えっと、ありがとう?」
デュークがどうして怒っているのか、レーヴには今ひとつよく分からなかった。
だって、彼の言っていることは滅茶苦茶だ。紳士らしくしていたのにレーヴがそれを邪魔すると言いたいのだろうが、締めくくりが“惚れ直す”ではなんとも締まらない。
あわあわとしながら、なんとか穏便に済ませようとレーヴは口を開いた。
「えっと、責任は取るから。だから、機嫌直して。ね?」
「本当?じゃあ、遠慮なく」
泣いていたのが嘘のように、デュークはケロリと答えた。
レーヴに押し付けていた顔には、涙のあとすら見当たらない。
(やられた……)
ルンルンと鼻歌を歌いながらレーヴを抱き上げるデュークに、彼女は腑に落ちないと唇をへの字にしてジトリと睨んだ。
そんな唇に「可愛い」と呟いて、デュークは遠慮なく唇を寄せる。
触れ合った唇に、レーヴは顔を真っ赤にした。
ファーストキスだったのに、ロマンチックな雰囲気のかけらもない状態でサラリと済ますなんて酷い。
レーヴにだって、ファーストキスには夢や希望くらい、あるのだ。
「は、は、初めてなのにっ」
涙目で睨みながら詰るレーヴに、デュークは更なる追撃を投下した。
「大丈夫だよ、初めてじゃないから。それに……これからもっとすごいことするからね」
語尾にハートでもつきそうなくらい、色気たっぷりな声だった。
ゾワゾワと腰を直撃する謎の感覚に、レーヴは疑問符を浮かべながら「え、え」と困惑することしか出来ない。
「え、待って。ねぇ、待って⁈」
「大丈夫、大丈夫。怖くないよー」
「展開が、早すぎる!お願いだから、ゆっくり、ゆっくり、ね?ね?」
「はぁぁぁ……可愛い。レーヴ、可愛い。やっと触れた。馬の姿の時は散々お預けされて、もう、限界。存分に君を堪能させてもらうよ」
焦らされまくった元魔馬は、止まらない。
レーヴは覚えておくべきだったのだ。
牝馬の発情に促されて、牡馬も発情するということを。
「あのままじゃあ、死んじゃうでしょ?」
「それでも良かった」
「私が呼んだら、出てきたくせに」
「だって、君の願いはなんでも叶えてあげたい」
「じゃあ、生きて欲しいっていう願いも叶えてよ」
ニヤリと笑って見せれば、デュークはポカンとしていた。
信じられないと見開かれた目から、涙が溢れる。
「……君は!どうして!せっかく僕が紳士らしく潔く身を引いたのに、どうしてそうなんだ!頑張って紳士らしくしているのに、君がそうだから、僕は、僕は……」
デュークは、悔しそうだ。泣きながら、怒っている。
レーヴはそれを眺めながら、嬉しさを噛み締めていた。
大人っぽくて子供っぽいと思っていた。けれどまさか努力して紳士らしくしているとは思ってもみなくて、思わぬ告白に胸がキュンとする。
(可愛い……)
撫で回して、頬ずりしたいくらいだ。
それくらい、デュークが可愛くて仕方がない。
「はは……頑張ってたんだ?」
「頑張ってたよ!僕なりに、精一杯!なのに、君が!」
「えっと、ごめんね?」
人になったデュークは獣人の時よりも感情豊かになったらしい。
泣きながら怒るという器用な感情表現をしながら、レーヴにひしっとしがみついてくる。
「謝って済む問題じゃないでしょ!」
感情豊かすぎて、レーヴは少々戸惑うくらいだ。嫌いじゃないけれど、ギャップが激しすぎて順応しきれない。
「君ときたら、僕をお姫様か何かと勘違いしていない?男なんだよ、男!良い格好させてよ!ピンチに駆けつけてなんとかしちゃうとか、王子様のすることだろう⁈カッコよくて、惚れ直すじゃないか!」
「えっと、ありがとう?」
デュークがどうして怒っているのか、レーヴには今ひとつよく分からなかった。
だって、彼の言っていることは滅茶苦茶だ。紳士らしくしていたのにレーヴがそれを邪魔すると言いたいのだろうが、締めくくりが“惚れ直す”ではなんとも締まらない。
あわあわとしながら、なんとか穏便に済ませようとレーヴは口を開いた。
「えっと、責任は取るから。だから、機嫌直して。ね?」
「本当?じゃあ、遠慮なく」
泣いていたのが嘘のように、デュークはケロリと答えた。
レーヴに押し付けていた顔には、涙のあとすら見当たらない。
(やられた……)
ルンルンと鼻歌を歌いながらレーヴを抱き上げるデュークに、彼女は腑に落ちないと唇をへの字にしてジトリと睨んだ。
そんな唇に「可愛い」と呟いて、デュークは遠慮なく唇を寄せる。
触れ合った唇に、レーヴは顔を真っ赤にした。
ファーストキスだったのに、ロマンチックな雰囲気のかけらもない状態でサラリと済ますなんて酷い。
レーヴにだって、ファーストキスには夢や希望くらい、あるのだ。
「は、は、初めてなのにっ」
涙目で睨みながら詰るレーヴに、デュークは更なる追撃を投下した。
「大丈夫だよ、初めてじゃないから。それに……これからもっとすごいことするからね」
語尾にハートでもつきそうなくらい、色気たっぷりな声だった。
ゾワゾワと腰を直撃する謎の感覚に、レーヴは疑問符を浮かべながら「え、え」と困惑することしか出来ない。
「え、待って。ねぇ、待って⁈」
「大丈夫、大丈夫。怖くないよー」
「展開が、早すぎる!お願いだから、ゆっくり、ゆっくり、ね?ね?」
「はぁぁぁ……可愛い。レーヴ、可愛い。やっと触れた。馬の姿の時は散々お預けされて、もう、限界。存分に君を堪能させてもらうよ」
焦らされまくった元魔馬は、止まらない。
レーヴは覚えておくべきだったのだ。
牝馬の発情に促されて、牡馬も発情するということを。
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