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八章 囚われの王子様
52 失恋しかけの魔獣の助け方③
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「端的に言うと、呪いをかける」
「呪い?」
物騒な手段に、レーヴは険しい顔をした。呪いとは穏やかではない。
「そうだ。我々は命を繋ぐ呪いと呼んでいる。その名の通り、君の命とデュークの命を繋ぐ呪いだ。君が死ねばデュークは死に、デュークが死ねば君も死ぬ。まぁ、恋する相手が死ぬと生きていられない我々には不要な呪いなわけだが……」
いつ消滅するか分からないデュークと命を繋ぐことは、君にとってとても危険なことなのだ、とロディオンは言った。
命を繋ぐ呪い。それをすることで、どうなるというのか。
魔術を使えないレーヴには、さっぱり分からない。
そういえばデュークはレーヴに水属性の魔力があると言っていた。それを使うのだろうか。
「呪いは時に別の効果も生む。命を繋ぐ呪いを施すくらいの覚悟があなたにあるのならば、デュークへの気持ちも本物だということ。どういう原理かは解明されていないが、この呪いを施すことで、魔獣は人になることが出来るのだ」
命を繋ぐ呪いとは、獣人という過程を一飛びして人になれる術らしい。
「え……それ、反則じゃないんですか?」
ポロリとレーヴの本音が漏れた。
だって、そうだろう。命を繋ぐ呪いとは、そういうことだ。
消滅の可能性がある獣人になる危険を侵さずとも、人になる術がある。
「反則ではない。緊急措置だ。それに……人は獣に恋などしないだろう?そういうことさ」
(あぁ、そうか)
そうだ。人は、獣に恋をしない。
レーヴだって、デュークが獣人でなかったら恋にはならなかっただろう。
(今だから、出来ることなんだ)
デュークに恋をしている今だからこそ、この呪いは成立する。
ちょっとズルかもしれないけれど、デュークが助かるのなら、レーヴに躊躇う理由などない。
問題は、その呪いの掛け方だ。
レーヴは魔術を使ったことがない。そもそも、使えるのかも怪しい。
上手に出来るのか、それだけが心配だった。
失敗してデュークに何かあったら、レーヴは死んでも死に切れない。
「……呪いは、どうやってかけるんですか?」
「そう難しくはない」
そう言って、ロディオンは一枚の小さな紙をレーヴに差し出した。几帳面な字でチマチマと書かれているのは、詩のような呪文のような言葉たち。
「彼に触れながら、これを言うだけでいい。結婚の宣誓とそう変わらないだろう?」
ーー死が二人を分かつまで、二人の命は繋がれる。悪魔オロバスの名の下に、この契約を結ぶ。
「死が二人を分かつまで」
「おっと。ここで読み上げてはいけないよ。デューク用の呪いの文言だが、誤作動したら大変だからね」
ロディオンの制止に、レーヴは慌てて口を噤んだ。手にある紙片に、もう一度目を落とす。
「物騒な言葉ですね。悪魔の名の下に、なんて……」
レーヴは敬虔な信者ではないが、この国には女神の加護があるとされている。
悪魔は人を堕落させる悪いもの。悪魔との契約は、禁忌とされているのだ。
ふと、レーヴはデュークが貰うはずの苗字を思い出した。確か、彼の苗字はオロバスだったはずだ。
馬の姿をした悪魔の名前。
獣人はみんな、悪魔の名前を貰う。
(デュークの名前なら、怖くない)
「いえ、撤回します。デュークの名前なら、ちっとも怖くない」
レーヴは貰った紙を大事そうに内ポケットへしまい込んだ。
「準備できたわよ」
ちょうどいいタイミングで、マリーが顔を覗かせる。
ハリケーンが通過していったような室内の様子に、彼女は相変わらずおっとりした口調で「あらあら」と言った。
「呪い?」
物騒な手段に、レーヴは険しい顔をした。呪いとは穏やかではない。
「そうだ。我々は命を繋ぐ呪いと呼んでいる。その名の通り、君の命とデュークの命を繋ぐ呪いだ。君が死ねばデュークは死に、デュークが死ねば君も死ぬ。まぁ、恋する相手が死ぬと生きていられない我々には不要な呪いなわけだが……」
いつ消滅するか分からないデュークと命を繋ぐことは、君にとってとても危険なことなのだ、とロディオンは言った。
命を繋ぐ呪い。それをすることで、どうなるというのか。
魔術を使えないレーヴには、さっぱり分からない。
そういえばデュークはレーヴに水属性の魔力があると言っていた。それを使うのだろうか。
「呪いは時に別の効果も生む。命を繋ぐ呪いを施すくらいの覚悟があなたにあるのならば、デュークへの気持ちも本物だということ。どういう原理かは解明されていないが、この呪いを施すことで、魔獣は人になることが出来るのだ」
命を繋ぐ呪いとは、獣人という過程を一飛びして人になれる術らしい。
「え……それ、反則じゃないんですか?」
ポロリとレーヴの本音が漏れた。
だって、そうだろう。命を繋ぐ呪いとは、そういうことだ。
消滅の可能性がある獣人になる危険を侵さずとも、人になる術がある。
「反則ではない。緊急措置だ。それに……人は獣に恋などしないだろう?そういうことさ」
(あぁ、そうか)
そうだ。人は、獣に恋をしない。
レーヴだって、デュークが獣人でなかったら恋にはならなかっただろう。
(今だから、出来ることなんだ)
デュークに恋をしている今だからこそ、この呪いは成立する。
ちょっとズルかもしれないけれど、デュークが助かるのなら、レーヴに躊躇う理由などない。
問題は、その呪いの掛け方だ。
レーヴは魔術を使ったことがない。そもそも、使えるのかも怪しい。
上手に出来るのか、それだけが心配だった。
失敗してデュークに何かあったら、レーヴは死んでも死に切れない。
「……呪いは、どうやってかけるんですか?」
「そう難しくはない」
そう言って、ロディオンは一枚の小さな紙をレーヴに差し出した。几帳面な字でチマチマと書かれているのは、詩のような呪文のような言葉たち。
「彼に触れながら、これを言うだけでいい。結婚の宣誓とそう変わらないだろう?」
ーー死が二人を分かつまで、二人の命は繋がれる。悪魔オロバスの名の下に、この契約を結ぶ。
「死が二人を分かつまで」
「おっと。ここで読み上げてはいけないよ。デューク用の呪いの文言だが、誤作動したら大変だからね」
ロディオンの制止に、レーヴは慌てて口を噤んだ。手にある紙片に、もう一度目を落とす。
「物騒な言葉ですね。悪魔の名の下に、なんて……」
レーヴは敬虔な信者ではないが、この国には女神の加護があるとされている。
悪魔は人を堕落させる悪いもの。悪魔との契約は、禁忌とされているのだ。
ふと、レーヴはデュークが貰うはずの苗字を思い出した。確か、彼の苗字はオロバスだったはずだ。
馬の姿をした悪魔の名前。
獣人はみんな、悪魔の名前を貰う。
(デュークの名前なら、怖くない)
「いえ、撤回します。デュークの名前なら、ちっとも怖くない」
レーヴは貰った紙を大事そうに内ポケットへしまい込んだ。
「準備できたわよ」
ちょうどいいタイミングで、マリーが顔を覗かせる。
ハリケーンが通過していったような室内の様子に、彼女は相変わらずおっとりした口調で「あらあら」と言った。
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