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八章 囚われの王子様

45 再会①

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「え……」

 レーヴは、驚いた。あんぐりと開けた口から、咥えていた指をそろりと出す。景気付けのつもりで指笛まで披露してみたが、まさか馬が来るとは思わなかったのだ。

(え、ちょっと待って。あの馬、今、二階から来なかった?なんで、厩舎じゃなくて城内にいるの?おかしくない?……もしかして魔獣⁈捕獲しなくて大丈夫なの?いや、それよりなんだか見覚えがありまくる馬なんですけどーー⁈)

 しなやかな筋肉に、艶やかな黒の毛並み。耳も長すぎず短すぎず理想的。無駄なものも足りないものも何一つない。美馬コンテストがあったら、間違いなくぶっちぎりの優勝だ。誰も彼もが賞賛するに違いない。

 歳を重ねて、彼は美しさを増したようだ。レーヴの持つ言葉では、褒めきれないほどに。

(待って。いや、待って⁉︎まさか、いや、そんな、まさか!)

 レーヴの混乱も無理はない。目と鼻の先に、もう一度会いたい、乗せて欲しいと思っていた馬がいるのだ。出来すぎだろう。会いたいと思うあまり、幻覚を見ているのかもしれない。

 レーヴは分かりやすく混乱していた。無意識に頰へ向かった指先が、ぎゅむっと抓る。当たり前だが、痛かった。

「えーっと……まさかだけど、デューク?」

 目を瞬かせながら、レーヴは言った。彼女の問いに、馬は「よく分かったね」と言うように鳴く。その耳はピンと立ち、尻尾はブウンブウンと鞭のようにしなっている。彼の仕草は、喜びを表していた。

「嘘ぉ……」

 呟いたレーヴの顔は、信じられないと言わんばかりだ。もう会えるはずのない魔馬のデュークが、目の前にいる。

 ぶるりとレーヴの全身が、震えた。まるで、前世で離れ離れになった運命の相手を、再び見つけた瞬間のようだと思った。

 雷に打たれたような衝撃とは、まさにこのことを言うのだろう。彼女の体は、歓喜に打ち震えていた。

 そんな一人と一頭を見つめ、マリーは「愛の力ね」と感動に目を潤ませる。ロディオンは「さすが、デュークが見初めた女」と頷き、エカチェリーナは諦めたように握りしめていた手をパタリと落とした。

「わ、わぁぁ……」

 キラキラと目を輝かせて、レーヴは手で口を覆った。

(信じられない……)

 ふらふらとした足取りで、彼女はデュークに歩み寄る。

(夢だったらどうしよう。それなら、覚める前に堪能しなくては)

 そう思ったら、足は止まらない。心許ない足取りはしっかりとしたものになり、レーヴは床を蹴りあっという間に階段を駆け上がった。

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