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七章 所詮は軍人、姫になどなれません
35 囚われの姫を助けるのは騎士の務め
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扉の隙間に突き刺した、スプーンにナイフにフォークの数々。最後の一本が折れたのを見て、レーヴは舌打ちした。
「あぁ、もう!」
悔し紛れに、ガンガンと扉を蹴る。扉は木製に見えるのに、レーヴの蹴りにビクともしない。それが余計に彼女を苛立たせた。
(もう!もうもうもう!)
まるで牛のようにモーモーしていたレーヴだったが、唐突に「なら闘牛になってやろうじゃない」と物騒なことを呟いた。その目はギラギラと闘牛士を狙う闘牛のようにギラついている。レーヴは扉から少し離れると、助走をつけて蹴りつけようとした。
その時である。
ギ、と唐突に扉が開いた。
刺さったままだった柄のないカトラリーが、次々と床に落ちる。カシャンカシャンと金属音が鳴り響く中、レーヴは間抜けな声を漏らした。
「え……!」
「なっ!」
不意にジョージと目が合って、レーヴは驚いた。
(なんでジョージ⁈)
扉に炸裂するはずだった闘牛の角、もといレーヴの脚が空を切る。着地しようと慌てて捻った体がドンっと力強い腕に押された。そのせいで、バランスを崩した体がべしゃっと床に叩きつけられる。
ほんの一瞬の出来事。痛みに呻きながら顔を上げれば、閉まりつつある扉の隙間からジョージが叫んでいた。
「この部屋は必ず一人閉じ込められるように魔術がかけられている。だから、開けるな!お前は急いで部隊に戻れっ!そうでないと……」
ギィ、バタン。重々しい音を立てて、分厚い扉が閉まる。ジョージの声が聞こえたのはそこまでだった。閉まりきった扉からは物音一つしない。
あっという間のことで、レーヴは理解が追いつかなかった。それでも、残った理性が自分の身代わりにジョージが閉じ込められたのだと告げてくる。レーヴは、慌てて扉に駆け寄った。
「ジョージ!」
力一杯叩いても、分厚い扉は壁のようにビクともしない。苛立たしげに歯噛みしながら、レーヴは扉を蹴りつけた。
「なんなのよ、もうっ!」
レーヴは扉の取っ手に手を伸ばした。だが、彼女は何かを思い出したような顔をして手を止める。記憶の隅に、思い当たるものがあったのだ。
貴人向けの牢獄ーーそれがこの部屋なのではないのか。もともとは宮殿として建設されたものの一部が、王族や地位のある人間を収容するための牢獄になっているのだと学校で習ったような気もする。
豪華なベッドもテーブルも、謎の箱も、それならば納得がいく。そして、エカチェリーナがここを選んだことも。
(納得の処遇だわ)
レーヴは大事にされていたんじゃない。エカチェリーナに投獄されていたのだ。
ジョージはそんなレーヴの身代わりに、この牢獄へ入ったのだろう。誰かが身代わりになれば、中にいたものは助かる。
法の抜け道だ。犠牲を払うことで、貴人は助かる。犠牲になる者は衣食住を約束されてウィンウィンとかいうのだろう。本当にウィンウィンなのかはかなり怪しいところではあるが。
「でも、どうしてジョージが?」
レーヴの身代わりに彼が囚われの身になる理由などないはずだ。どうして、とレーヴはもう一度呟く。
「あぁ、もう!」
悔し紛れに、ガンガンと扉を蹴る。扉は木製に見えるのに、レーヴの蹴りにビクともしない。それが余計に彼女を苛立たせた。
(もう!もうもうもう!)
まるで牛のようにモーモーしていたレーヴだったが、唐突に「なら闘牛になってやろうじゃない」と物騒なことを呟いた。その目はギラギラと闘牛士を狙う闘牛のようにギラついている。レーヴは扉から少し離れると、助走をつけて蹴りつけようとした。
その時である。
ギ、と唐突に扉が開いた。
刺さったままだった柄のないカトラリーが、次々と床に落ちる。カシャンカシャンと金属音が鳴り響く中、レーヴは間抜けな声を漏らした。
「え……!」
「なっ!」
不意にジョージと目が合って、レーヴは驚いた。
(なんでジョージ⁈)
扉に炸裂するはずだった闘牛の角、もといレーヴの脚が空を切る。着地しようと慌てて捻った体がドンっと力強い腕に押された。そのせいで、バランスを崩した体がべしゃっと床に叩きつけられる。
ほんの一瞬の出来事。痛みに呻きながら顔を上げれば、閉まりつつある扉の隙間からジョージが叫んでいた。
「この部屋は必ず一人閉じ込められるように魔術がかけられている。だから、開けるな!お前は急いで部隊に戻れっ!そうでないと……」
ギィ、バタン。重々しい音を立てて、分厚い扉が閉まる。ジョージの声が聞こえたのはそこまでだった。閉まりきった扉からは物音一つしない。
あっという間のことで、レーヴは理解が追いつかなかった。それでも、残った理性が自分の身代わりにジョージが閉じ込められたのだと告げてくる。レーヴは、慌てて扉に駆け寄った。
「ジョージ!」
力一杯叩いても、分厚い扉は壁のようにビクともしない。苛立たしげに歯噛みしながら、レーヴは扉を蹴りつけた。
「なんなのよ、もうっ!」
レーヴは扉の取っ手に手を伸ばした。だが、彼女は何かを思い出したような顔をして手を止める。記憶の隅に、思い当たるものがあったのだ。
貴人向けの牢獄ーーそれがこの部屋なのではないのか。もともとは宮殿として建設されたものの一部が、王族や地位のある人間を収容するための牢獄になっているのだと学校で習ったような気もする。
豪華なベッドもテーブルも、謎の箱も、それならば納得がいく。そして、エカチェリーナがここを選んだことも。
(納得の処遇だわ)
レーヴは大事にされていたんじゃない。エカチェリーナに投獄されていたのだ。
ジョージはそんなレーヴの身代わりに、この牢獄へ入ったのだろう。誰かが身代わりになれば、中にいたものは助かる。
法の抜け道だ。犠牲を払うことで、貴人は助かる。犠牲になる者は衣食住を約束されてウィンウィンとかいうのだろう。本当にウィンウィンなのかはかなり怪しいところではあるが。
「でも、どうしてジョージが?」
レーヴの身代わりに彼が囚われの身になる理由などないはずだ。どうして、とレーヴはもう一度呟く。
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