22 / 71
五章 私のために争わないで、とはいきません
22 無事で良かった
しおりを挟む
「私は、何が怖いの?」
考えても考えても答えが出ない。泣くことなんて久しぶりすぎて、壊れたように流れる涙を止める方法も分からない。
レーヴは出来ないことだらけだ。
(こんな出来損ないの軍人を好きになるなんて、デュークはどうかしてる)
もはや八つ当たりともいえるようなことを思いながら、レーヴはスンスンと鼻をすすった。
「こんな軍人、見捨てられたって仕方がない」
「こんな軍人って、レーヴのことを言っているの?」
デュークの声に、レーヴは慌てて泣き濡れた顔を手のひらで覆い隠した。情けなさすぎて消えたいくらいなのに、その上デュークに見られたらどうにかなってしまいそうだったのだ。
デュークはゆっくりと寝室に入ってきた。そして、用意したお茶をベッドの横に置いてある小さなチェストに置く。
キッチンから持ってきたのだろう、デュークと初対面の時にレーヴが座っていた脚立に腰掛けて、彼は自分の分のお茶を一口飲むとフゥと安堵したようなため息を吐いた。
「君が無事で良かった」
「良くない」
「そんなわけないだろう。もし君が死んでしまったら、僕は寂しくて死んでしまう」
「なにそれ。ウサギみたい」
「獣人とはそういうものなんです」
軽口の応酬のような会話が、なんとなく心地好い。デュークもわざとそうしているのだろう。涙声のレーヴを痛ましそうに見つめている。
「難儀な生き物ね」
「そうだね。恋をしないと大人になれないし、大人になっても恋してもらえなければ消滅してしまう。恋した相手が死んでも、僕らは寂しくて死んでしまう」
本当に、難儀な生き物だ。縛るものが多すぎる。
レーヴはデュークがそんな目に遭う必要があったのだろうかと思った。
レーヴに恋をしなければ、今頃彼は魔の森で穏やかに過ごしていたかもしれない。そして、レーヴが生きる年月の倍の年月を生きていく。
「デュークには長生きして欲しいなぁ」
それは、本当に思う。レーヴはデュークに消滅してもらいたくなかった。そばにいて、こんなにも安らげる相手なんて、人生のうちでそう多くないだろう。ましてや、初対面からレーヴが警戒しない者なんてかなり稀だ。
そんな、貴重な生き物が自分のせいで寿命を減らしている。レーヴの目の前で消滅してしまうかもしれいない。出来ることなら過去に戻ってデュークに言ってやりたい。
(私に恋をしないで)
そして、魔の森で生きていて欲しい。そばにいなくても良い。大切なデュークが生きてさえいれば、レーヴは満足だ。
しみじみとそう呟いたレーヴに、デュークは困ったように笑う。だって、彼が言えるのはこれだけなのだ。
「じゃあ、僕に恋をしてください」
それだけだ。
考えても考えても答えが出ない。泣くことなんて久しぶりすぎて、壊れたように流れる涙を止める方法も分からない。
レーヴは出来ないことだらけだ。
(こんな出来損ないの軍人を好きになるなんて、デュークはどうかしてる)
もはや八つ当たりともいえるようなことを思いながら、レーヴはスンスンと鼻をすすった。
「こんな軍人、見捨てられたって仕方がない」
「こんな軍人って、レーヴのことを言っているの?」
デュークの声に、レーヴは慌てて泣き濡れた顔を手のひらで覆い隠した。情けなさすぎて消えたいくらいなのに、その上デュークに見られたらどうにかなってしまいそうだったのだ。
デュークはゆっくりと寝室に入ってきた。そして、用意したお茶をベッドの横に置いてある小さなチェストに置く。
キッチンから持ってきたのだろう、デュークと初対面の時にレーヴが座っていた脚立に腰掛けて、彼は自分の分のお茶を一口飲むとフゥと安堵したようなため息を吐いた。
「君が無事で良かった」
「良くない」
「そんなわけないだろう。もし君が死んでしまったら、僕は寂しくて死んでしまう」
「なにそれ。ウサギみたい」
「獣人とはそういうものなんです」
軽口の応酬のような会話が、なんとなく心地好い。デュークもわざとそうしているのだろう。涙声のレーヴを痛ましそうに見つめている。
「難儀な生き物ね」
「そうだね。恋をしないと大人になれないし、大人になっても恋してもらえなければ消滅してしまう。恋した相手が死んでも、僕らは寂しくて死んでしまう」
本当に、難儀な生き物だ。縛るものが多すぎる。
レーヴはデュークがそんな目に遭う必要があったのだろうかと思った。
レーヴに恋をしなければ、今頃彼は魔の森で穏やかに過ごしていたかもしれない。そして、レーヴが生きる年月の倍の年月を生きていく。
「デュークには長生きして欲しいなぁ」
それは、本当に思う。レーヴはデュークに消滅してもらいたくなかった。そばにいて、こんなにも安らげる相手なんて、人生のうちでそう多くないだろう。ましてや、初対面からレーヴが警戒しない者なんてかなり稀だ。
そんな、貴重な生き物が自分のせいで寿命を減らしている。レーヴの目の前で消滅してしまうかもしれいない。出来ることなら過去に戻ってデュークに言ってやりたい。
(私に恋をしないで)
そして、魔の森で生きていて欲しい。そばにいなくても良い。大切なデュークが生きてさえいれば、レーヴは満足だ。
しみじみとそう呟いたレーヴに、デュークは困ったように笑う。だって、彼が言えるのはこれだけなのだ。
「じゃあ、僕に恋をしてください」
それだけだ。
0
お気に入りに追加
499
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
※完結まで毎日更新です。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる