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第二話
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「……きみは、どうしてそうすぐに迷子になるんでしょうね」
頭上を振り仰ぐ――木戸に邪魔されて見えなかったが――と、眼前に細い縄が落とされた。屋根の上まで登ってこい、ということだろう。是非ともこの窓に仕組みを鑑みて欲しかった。
苦労して窓から這い出て壁をよじ登る。
伝った紐の先、赤瓦の上に立っていたのは、よく見知った相棒の呆れ顔だった。
「タキ、半日ぶり!」
「いいかげん海を渡るのくらい慣れてはどうですか? 次にアオヌスマから渡る時、もしも迷子になったら、僕にも考えがありますよ」
「考え?」
「姉様に言いつけます」
「ちょっと待って。それだけは勘弁して!」
その衝撃に膝が折れた。タキの足元にすがりついて懇願する。
タキが言う姉様とは、姉弟子のことだ。
師にあたるマナ使いは放任主義の極致にいるような人で、一番弟子の彼女にすべてを任せていると言っても過言ではないほど、ゼンやタキのことに関心を示さない。だからゼンが怒られるとしたらそれは当然、師ではなく姉弟子にということになる。彼女は怒るととっても怖い。
タキはそんなゼンを睥睨すると、くるりと踵を返して赤瓦の上を歩き出した。その足取りは軽い。縄を回収し、ゼンもそのあとに続く。
マナ使いの彼らにとって、マナを使うことは呼吸をすることに等しい。
海に、森に、空に、マナは溢れている。
ゼンの目にそれは光の粒子のように映るが、人にはどう見えているのだろう。アガリエが海から現れたゼンを一目見るなり神と呼んだのは、彼女の目に映るマナがそう示していたからなのだろうか。マナ使いはマナ使いであり、決して神ではないのだが。
マナ使いが現世にある時、彼らには人と同じように肉体がある。無論、屋根の上を歩けばその重さに瓦は軋む。
だがそこはマナ使いがマナ使いたる由縁だ。風に混ざるマナを使い、肉体にかかる重力を軽減させる。それだけでは空を飛ぶには至らないが、足音を忍ばせて屋根の上を歩くくらいなら充分だ。
ゼンが歓待を受けている間に、好奇心旺盛なタキは色々と調べまわったらしい。
いわく、この東の城は四つの宮に分かれているのだそうだ。
外周を覆う石垣の内側には城仕えの者たちの居住区。そこからさらに幾重にも連なる石垣の内側にある三つの宮のうち、正面が政を行う宮、その傍らにあるのが高位の身分にある者たちの住まい、そして残る東側にあるのが祭祀を行う宮。ゼンが今いるのも、そして最初にアガリエに招かれたのもこの後者の宮だ。
「警備はこの宮がもっとも厳重です。はじめは神であるきみがいるからかと思っていましたが……」
ゼンが神だと誤解されているということを、すでに耳にしているらしい。
「城へ入るとき石垣を見ましたか? 一番外側にある石垣はまだ真新しい。ついでに倉も覗いてきましたが、備蓄は充分すぎるほどありました。聞くところによれば、ここ数年は日照り続きで作物は壊滅的な被害を受けているらしいのですが」
「……石垣を作って、随分前から食糧を集めてるってことは、やっぱり戦でも始まるのか、それとも始めるつもりなのか」
「助けて、と僕には聞こえました」
「俺も。あれはたぶんアガリエの声だった」
おや、とタキが眉を上げてみせる。わざとらしい。
「迷子にはなったけど、ちゃんと任務に役立ってるだろ」
「きみのその強運を、迷子にならないよう方向感覚に生かすことはできないものでしょうかね」
「でもまっすぐにアガリエのところに辿り着いたんだから、迷子は俺じゃなくて、タキのほうだったんじゃない?」
「それがきみの実力だというなら、ぜひ相棒の僕も連れて行って欲しかったですね。気づいたらもう隣にいませんでしたよ」
ごもっともだ。
いやでも、迷子はタキの専売特許なんだけど……、って言っても仕方がないか。この様子だと自覚ないんだろうしなあ。
そんなことを悶々と考えていたからだろうか、ゼンは足を滑らせた。
「わっ」
「ゼン!」
呆気なく落下する。
なんとか着地することには成功したが、石畳に手をついたため、その痛みに呻き声が漏れるのを防ぐことはできなかった。
「マナ使いが聞いて呆れますね」
心配しているとはとても思えない冷ややかな声だ。
ちょっと油断しただけだろう、と反論しようとした時、声が聞こえた。
タキの耳にも届いたらしい。すぐさまゼンの隣に降りてくる。
嬌声だ。
すでに宵の口。男女が睦み合っていてもなんらおかしくはない時刻だが、ここは城の中の――しかもアガリエが治める祭祀の宮で、寝所を持つのは主たる彼女だけ。そのはずだ。
旦那様、と艶やかな女の声が相手を呼ぶ。
その求めに男も応じる。
無粋な真似をするためにこの場にいるわけではない。早々に立ち去るべきだとはわかっているが、どうしても動けなかった。
風に乗って香る、この匂いには覚えがあった。
これは――。
「何奴」
誰何の声に視線を滑らせる。
すると暗がりの中で何かが風に揺らめいた。
「アガリエ?」
どうやらゼンが落ちたのは、昼間招かれた露台だったらしい。
彼女はあの時と同じように敷布の上に座していた。今宵は満月だ。月明かりが満ちているとはいえ、すぐには相手を判別できなかったのだろう、アガリエは手に短刀をかまえた。
「ここがアガリエの宮と知っての狼藉か?」
「待って! ちょっと待って。俺、ゼンだよ」
「ゼン様? どうしてここに……」
「いや、それより! きみの寝所から流れてくるこの香は何だ? 幻聴や幻覚を見せる香だろう? あそこできみの夫を相手にしているのは……誰なんだ?」
彼女の寝所から聞こえてくるのはジンブンの声に間違いないのに、アガリエは今ゼンの目の前にいる。
アガリエは静かにゼンを見据えていたが、やがてゆっくりと口の端を上げて微笑した。
「あの男の財力は実に魅力的ですが、わたくしの肌に触れるにはあの男の手は穢れすぎているのです。けれどそれではあの男は納得しないでしょうから、夢を、見せてあげているのですわ。あの香は調合に手間がかかるのが難点ですが、ひとたび嗅げば己が強く望むものを見ることができます。ですから実際に寝台に上がる女がわたくしであろうとなかろうと関係ないのです」
「身代わりを、立てているのか」
「ずいぶんと心無い言い方をなさいますね。頼るべき親を亡くし、幼い弟妹を養わなくてはならならず困っていた娘に、わたくしが仕事を与えているだけです。わたくしはむしろ感謝されてしかるべきかと」
夜風が吹く。
闇のように深い黒髪がなびき、アガリエの白い手がそれを整える。その五指に刻み込まれた複雑な紋様は、彼女が神女であることを示す特別なものだ。
けれど目の前にいる彼女が、純粋にゼンを神と信じ、崇めているようには思えない。
だって神女は結婚するし、子だって産む。だけど気に入らないからって旦那に薬を盛って他の女を抱かせるのが、神女のすることか?
海辺で出会った時とも、宴の時とも違う凍てついた笑みに、ゼンは戸惑っていた。
どれが本当のアガリエなのだろう。
けれど初対面の相棒はまた違う感想を抱いたらしい。――いや、そもそも何の感慨も受けていないようだ。タキはおもむろにアガリエに近づくと、彼女の手から短刀を抜き取り、その場に跪いた。
「マナ使いのタキと申します。以後お見知りおきを」
眠たげな双眸に、驚くほど抑揚のない声だった。
「……二人もいらしたのですね」
「本来なら二人そろってご挨拶に伺う予定だったのですが、手違いがありまして。本来マナ使いは二人で一対なのですよ」
本来本来とうるさい。
だがアガリエは他のことを思ったらしい。
「二人で一対。まるで創世の神々のよう」
神世の時代に、リウ王国に初めて降り立ったとされる創世の神は、二人だったと言い伝えられている。こちらは男女だが。
アガリエは立ち上がると石段を下りた。
「場所を移しましょう。……久方ぶりの逢瀬です。仲睦まじい夫婦を演じるためにも、しばらくはあのような状態でしょうから」
「いや、でも」
「もしや身売りする女を目の当たりにするのは初めてですか?」
ゼンの表情から是ととったのだろう、アガリエは口元を袖で隠したが、嘲笑は隠しきれていなかった。
「間男になってみたいとでも仰るの? 閨に飛び込んで、その女はアガリエではないと我が夫に申し立てて、……それで誰が喜ぶというのでしょうね」
「喜ぶ喜ばないの話じゃないだろ。だってジンブンはアガリエの夫なんだから、だから……えっと、だからええと、ええと」
「何を勘違いされているのかは存じませんが、あの男はただわたくしの地位と名誉が欲しかっただけ。わたくしのことは髪を飾る宝飾品のひとつくらいにしか思っておりませんよ。ですから今後も変わらず王の娘の寝所で夜を明かす誉を賜ることさえできれば、後は些末なことと判断するでしょう。仮に腕の中の女がわたくしではなかったと知ったとしても、何の問題もありません」
「些末って……。昼間はあんなに仲睦まじくしていたくせに。あれも全部演技だったっていうのか?」
「では、政略結婚であったと不平不満を述べながら日々を過ごして、皆を失望させれば良いとでも? 随分と心無いことを仰せになるのですね」
そうではない。そういうことを言いたいわけではないのに、昼間と変わらぬ優しげな声音で告げられる辛辣な言葉に、気持ちがついていかない。
「正義も、善意も、腹を満たすことはありません。哀れなわたくし達を救ってくれることもない。それでも良いと仰せならば、どうぞお好きになさってください。閨の戸に鍵はかかっておりませんから」
最低だな、と罵る声は、波音に消されてしまう。
けれどアガリエは正確に聞き取ったらしい。
お互い様です、と言って、また冷たく笑った。
頭上を振り仰ぐ――木戸に邪魔されて見えなかったが――と、眼前に細い縄が落とされた。屋根の上まで登ってこい、ということだろう。是非ともこの窓に仕組みを鑑みて欲しかった。
苦労して窓から這い出て壁をよじ登る。
伝った紐の先、赤瓦の上に立っていたのは、よく見知った相棒の呆れ顔だった。
「タキ、半日ぶり!」
「いいかげん海を渡るのくらい慣れてはどうですか? 次にアオヌスマから渡る時、もしも迷子になったら、僕にも考えがありますよ」
「考え?」
「姉様に言いつけます」
「ちょっと待って。それだけは勘弁して!」
その衝撃に膝が折れた。タキの足元にすがりついて懇願する。
タキが言う姉様とは、姉弟子のことだ。
師にあたるマナ使いは放任主義の極致にいるような人で、一番弟子の彼女にすべてを任せていると言っても過言ではないほど、ゼンやタキのことに関心を示さない。だからゼンが怒られるとしたらそれは当然、師ではなく姉弟子にということになる。彼女は怒るととっても怖い。
タキはそんなゼンを睥睨すると、くるりと踵を返して赤瓦の上を歩き出した。その足取りは軽い。縄を回収し、ゼンもそのあとに続く。
マナ使いの彼らにとって、マナを使うことは呼吸をすることに等しい。
海に、森に、空に、マナは溢れている。
ゼンの目にそれは光の粒子のように映るが、人にはどう見えているのだろう。アガリエが海から現れたゼンを一目見るなり神と呼んだのは、彼女の目に映るマナがそう示していたからなのだろうか。マナ使いはマナ使いであり、決して神ではないのだが。
マナ使いが現世にある時、彼らには人と同じように肉体がある。無論、屋根の上を歩けばその重さに瓦は軋む。
だがそこはマナ使いがマナ使いたる由縁だ。風に混ざるマナを使い、肉体にかかる重力を軽減させる。それだけでは空を飛ぶには至らないが、足音を忍ばせて屋根の上を歩くくらいなら充分だ。
ゼンが歓待を受けている間に、好奇心旺盛なタキは色々と調べまわったらしい。
いわく、この東の城は四つの宮に分かれているのだそうだ。
外周を覆う石垣の内側には城仕えの者たちの居住区。そこからさらに幾重にも連なる石垣の内側にある三つの宮のうち、正面が政を行う宮、その傍らにあるのが高位の身分にある者たちの住まい、そして残る東側にあるのが祭祀を行う宮。ゼンが今いるのも、そして最初にアガリエに招かれたのもこの後者の宮だ。
「警備はこの宮がもっとも厳重です。はじめは神であるきみがいるからかと思っていましたが……」
ゼンが神だと誤解されているということを、すでに耳にしているらしい。
「城へ入るとき石垣を見ましたか? 一番外側にある石垣はまだ真新しい。ついでに倉も覗いてきましたが、備蓄は充分すぎるほどありました。聞くところによれば、ここ数年は日照り続きで作物は壊滅的な被害を受けているらしいのですが」
「……石垣を作って、随分前から食糧を集めてるってことは、やっぱり戦でも始まるのか、それとも始めるつもりなのか」
「助けて、と僕には聞こえました」
「俺も。あれはたぶんアガリエの声だった」
おや、とタキが眉を上げてみせる。わざとらしい。
「迷子にはなったけど、ちゃんと任務に役立ってるだろ」
「きみのその強運を、迷子にならないよう方向感覚に生かすことはできないものでしょうかね」
「でもまっすぐにアガリエのところに辿り着いたんだから、迷子は俺じゃなくて、タキのほうだったんじゃない?」
「それがきみの実力だというなら、ぜひ相棒の僕も連れて行って欲しかったですね。気づいたらもう隣にいませんでしたよ」
ごもっともだ。
いやでも、迷子はタキの専売特許なんだけど……、って言っても仕方がないか。この様子だと自覚ないんだろうしなあ。
そんなことを悶々と考えていたからだろうか、ゼンは足を滑らせた。
「わっ」
「ゼン!」
呆気なく落下する。
なんとか着地することには成功したが、石畳に手をついたため、その痛みに呻き声が漏れるのを防ぐことはできなかった。
「マナ使いが聞いて呆れますね」
心配しているとはとても思えない冷ややかな声だ。
ちょっと油断しただけだろう、と反論しようとした時、声が聞こえた。
タキの耳にも届いたらしい。すぐさまゼンの隣に降りてくる。
嬌声だ。
すでに宵の口。男女が睦み合っていてもなんらおかしくはない時刻だが、ここは城の中の――しかもアガリエが治める祭祀の宮で、寝所を持つのは主たる彼女だけ。そのはずだ。
旦那様、と艶やかな女の声が相手を呼ぶ。
その求めに男も応じる。
無粋な真似をするためにこの場にいるわけではない。早々に立ち去るべきだとはわかっているが、どうしても動けなかった。
風に乗って香る、この匂いには覚えがあった。
これは――。
「何奴」
誰何の声に視線を滑らせる。
すると暗がりの中で何かが風に揺らめいた。
「アガリエ?」
どうやらゼンが落ちたのは、昼間招かれた露台だったらしい。
彼女はあの時と同じように敷布の上に座していた。今宵は満月だ。月明かりが満ちているとはいえ、すぐには相手を判別できなかったのだろう、アガリエは手に短刀をかまえた。
「ここがアガリエの宮と知っての狼藉か?」
「待って! ちょっと待って。俺、ゼンだよ」
「ゼン様? どうしてここに……」
「いや、それより! きみの寝所から流れてくるこの香は何だ? 幻聴や幻覚を見せる香だろう? あそこできみの夫を相手にしているのは……誰なんだ?」
彼女の寝所から聞こえてくるのはジンブンの声に間違いないのに、アガリエは今ゼンの目の前にいる。
アガリエは静かにゼンを見据えていたが、やがてゆっくりと口の端を上げて微笑した。
「あの男の財力は実に魅力的ですが、わたくしの肌に触れるにはあの男の手は穢れすぎているのです。けれどそれではあの男は納得しないでしょうから、夢を、見せてあげているのですわ。あの香は調合に手間がかかるのが難点ですが、ひとたび嗅げば己が強く望むものを見ることができます。ですから実際に寝台に上がる女がわたくしであろうとなかろうと関係ないのです」
「身代わりを、立てているのか」
「ずいぶんと心無い言い方をなさいますね。頼るべき親を亡くし、幼い弟妹を養わなくてはならならず困っていた娘に、わたくしが仕事を与えているだけです。わたくしはむしろ感謝されてしかるべきかと」
夜風が吹く。
闇のように深い黒髪がなびき、アガリエの白い手がそれを整える。その五指に刻み込まれた複雑な紋様は、彼女が神女であることを示す特別なものだ。
けれど目の前にいる彼女が、純粋にゼンを神と信じ、崇めているようには思えない。
だって神女は結婚するし、子だって産む。だけど気に入らないからって旦那に薬を盛って他の女を抱かせるのが、神女のすることか?
海辺で出会った時とも、宴の時とも違う凍てついた笑みに、ゼンは戸惑っていた。
どれが本当のアガリエなのだろう。
けれど初対面の相棒はまた違う感想を抱いたらしい。――いや、そもそも何の感慨も受けていないようだ。タキはおもむろにアガリエに近づくと、彼女の手から短刀を抜き取り、その場に跪いた。
「マナ使いのタキと申します。以後お見知りおきを」
眠たげな双眸に、驚くほど抑揚のない声だった。
「……二人もいらしたのですね」
「本来なら二人そろってご挨拶に伺う予定だったのですが、手違いがありまして。本来マナ使いは二人で一対なのですよ」
本来本来とうるさい。
だがアガリエは他のことを思ったらしい。
「二人で一対。まるで創世の神々のよう」
神世の時代に、リウ王国に初めて降り立ったとされる創世の神は、二人だったと言い伝えられている。こちらは男女だが。
アガリエは立ち上がると石段を下りた。
「場所を移しましょう。……久方ぶりの逢瀬です。仲睦まじい夫婦を演じるためにも、しばらくはあのような状態でしょうから」
「いや、でも」
「もしや身売りする女を目の当たりにするのは初めてですか?」
ゼンの表情から是ととったのだろう、アガリエは口元を袖で隠したが、嘲笑は隠しきれていなかった。
「間男になってみたいとでも仰るの? 閨に飛び込んで、その女はアガリエではないと我が夫に申し立てて、……それで誰が喜ぶというのでしょうね」
「喜ぶ喜ばないの話じゃないだろ。だってジンブンはアガリエの夫なんだから、だから……えっと、だからええと、ええと」
「何を勘違いされているのかは存じませんが、あの男はただわたくしの地位と名誉が欲しかっただけ。わたくしのことは髪を飾る宝飾品のひとつくらいにしか思っておりませんよ。ですから今後も変わらず王の娘の寝所で夜を明かす誉を賜ることさえできれば、後は些末なことと判断するでしょう。仮に腕の中の女がわたくしではなかったと知ったとしても、何の問題もありません」
「些末って……。昼間はあんなに仲睦まじくしていたくせに。あれも全部演技だったっていうのか?」
「では、政略結婚であったと不平不満を述べながら日々を過ごして、皆を失望させれば良いとでも? 随分と心無いことを仰せになるのですね」
そうではない。そういうことを言いたいわけではないのに、昼間と変わらぬ優しげな声音で告げられる辛辣な言葉に、気持ちがついていかない。
「正義も、善意も、腹を満たすことはありません。哀れなわたくし達を救ってくれることもない。それでも良いと仰せならば、どうぞお好きになさってください。閨の戸に鍵はかかっておりませんから」
最低だな、と罵る声は、波音に消されてしまう。
けれどアガリエは正確に聞き取ったらしい。
お互い様です、と言って、また冷たく笑った。
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