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七章
17、帰ってこられたら
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「伝書鳩だな」
シャールーズが過去視で見たように、どうやら鷹に襲われたようだ。鳩の足についている管を開くと、中から正妃の手紙が出てきた。
他人の手紙を勝手に読むわけにはいかないが。母からの手紙すら封じてしまわれたら、まだ幼い少年は縋るものを失ってしまうだろう。
「この鳥が、猛禽に襲われているところが見えたので。助けてあげようと思ったんです」
アフタルはなんとか両足を屋根の上に上げて、落ち着いたようだ。
「はしたないですよね。皆さんには、屋根に上がったことを内緒にしてくださいね」
「ご褒美がないと無理だな」
「ご褒美って……」
すぐには思いつかないようで、アフタルは首を傾げた。その拍子に鳩が頭から落ちそうになり、慌てて両手で支えている。
シャールーズは鳩を受け取った。幸い、ひどい怪我ではなさそうだ。
「そうだな。アフタルからキスしてもらおうか」
「ほんの少し前にされたばかりです!」
「あれは、俺からだから。数の内に入らない」
「こんなに明るくて、外なのに?」
「さっきはラウルに見られてたぜ? しかも湖の向こうのオスティアでも外だったな」
にやにやと笑いながら、アフタルを眺めていると、しだいに彼女の顔が赤く染まる。
「だって、シャールーズが無理に……わたくしは恥ずかしくて」
「恥ずかしいから、いいんだろ? その方が楽しい」
「変態っ!」
「最高の褒め言葉だな」
ここには投げつけるクッションがないから、アフタルは悔しそうにスカートを掴んでいる。
「よかったな、お前。俺の所に避難しておいて。ぬいぐるみとかと間違えられて、投げつけられたら大変だぞ」
自分の膝にのせた鳩に、シャールーズは囁いた。
アフタルはもじもじしながら、左右に視線を走らせていたが。さすがに屋根の上に人目はないと諦めたのか、自ら身を乗りだしてきた。
「頬でいいですか?」
「なんで?」
「は、恥ずかしいからです」
アフタルの頬が、朱に染まる。
「しょうがねぇな」
シャールーズはアフタルに左の頬を向けた。あまりからかうと、それすらも拒否されてしまう。加減が難しいのだ。
ふわっと、頬を撫でるようなキスだった。
「おいおい、ふざけてんのか?」
シャールーズは膝から鳩を降ろして、身を乗りだした。アフタルはその分、後ろに下がる。
屋根の上だから逃げ場はない。
細い手首を捕まえると、深緑の瞳が潤んでいた。
「だって、あんなラウルに見せつけるようなキスをされて、平気なわけがありません」
(だよな。俺だって、見せつけられるような契約をされて、平気なわけじゃないんだぜ)
自分から勧めた契約だから、決して口にはできないけれど。
ラウルは、アフタルのことを気に入っている。
恋愛感情とは明らかに違うようだが。
たぶんラウル自身も考えないようにしているから、シャールーズも触れることはない。
人の心は自由だ。たとえその身体を拘束しても、心までは縛れない。
アフタルの手を離すと、シャールーズは彼女の襟を力任せに開いた。
「えっ?」
鎖骨の辺りにくちづける。力を込めて。
「い、痛いです」
「我慢しろ」
アフタルがシャールーズの髪に指をさし入れる。左手は、背中にしがみつく。力のこもるその指先に、彼女が今、ひりつく痛みを感じているのだと思うと、ぞくぞくする。
時間をかけた後で、シャールーズは唇を離した。
白い肌に赤っぽい痕が残っている。
(この痣が消えるまでに、戻ってこられたらいいんだけどな)
シャールーズが過去視で見たように、どうやら鷹に襲われたようだ。鳩の足についている管を開くと、中から正妃の手紙が出てきた。
他人の手紙を勝手に読むわけにはいかないが。母からの手紙すら封じてしまわれたら、まだ幼い少年は縋るものを失ってしまうだろう。
「この鳥が、猛禽に襲われているところが見えたので。助けてあげようと思ったんです」
アフタルはなんとか両足を屋根の上に上げて、落ち着いたようだ。
「はしたないですよね。皆さんには、屋根に上がったことを内緒にしてくださいね」
「ご褒美がないと無理だな」
「ご褒美って……」
すぐには思いつかないようで、アフタルは首を傾げた。その拍子に鳩が頭から落ちそうになり、慌てて両手で支えている。
シャールーズは鳩を受け取った。幸い、ひどい怪我ではなさそうだ。
「そうだな。アフタルからキスしてもらおうか」
「ほんの少し前にされたばかりです!」
「あれは、俺からだから。数の内に入らない」
「こんなに明るくて、外なのに?」
「さっきはラウルに見られてたぜ? しかも湖の向こうのオスティアでも外だったな」
にやにやと笑いながら、アフタルを眺めていると、しだいに彼女の顔が赤く染まる。
「だって、シャールーズが無理に……わたくしは恥ずかしくて」
「恥ずかしいから、いいんだろ? その方が楽しい」
「変態っ!」
「最高の褒め言葉だな」
ここには投げつけるクッションがないから、アフタルは悔しそうにスカートを掴んでいる。
「よかったな、お前。俺の所に避難しておいて。ぬいぐるみとかと間違えられて、投げつけられたら大変だぞ」
自分の膝にのせた鳩に、シャールーズは囁いた。
アフタルはもじもじしながら、左右に視線を走らせていたが。さすがに屋根の上に人目はないと諦めたのか、自ら身を乗りだしてきた。
「頬でいいですか?」
「なんで?」
「は、恥ずかしいからです」
アフタルの頬が、朱に染まる。
「しょうがねぇな」
シャールーズはアフタルに左の頬を向けた。あまりからかうと、それすらも拒否されてしまう。加減が難しいのだ。
ふわっと、頬を撫でるようなキスだった。
「おいおい、ふざけてんのか?」
シャールーズは膝から鳩を降ろして、身を乗りだした。アフタルはその分、後ろに下がる。
屋根の上だから逃げ場はない。
細い手首を捕まえると、深緑の瞳が潤んでいた。
「だって、あんなラウルに見せつけるようなキスをされて、平気なわけがありません」
(だよな。俺だって、見せつけられるような契約をされて、平気なわけじゃないんだぜ)
自分から勧めた契約だから、決して口にはできないけれど。
ラウルは、アフタルのことを気に入っている。
恋愛感情とは明らかに違うようだが。
たぶんラウル自身も考えないようにしているから、シャールーズも触れることはない。
人の心は自由だ。たとえその身体を拘束しても、心までは縛れない。
アフタルの手を離すと、シャールーズは彼女の襟を力任せに開いた。
「えっ?」
鎖骨の辺りにくちづける。力を込めて。
「い、痛いです」
「我慢しろ」
アフタルがシャールーズの髪に指をさし入れる。左手は、背中にしがみつく。力のこもるその指先に、彼女が今、ひりつく痛みを感じているのだと思うと、ぞくぞくする。
時間をかけた後で、シャールーズは唇を離した。
白い肌に赤っぽい痕が残っている。
(この痣が消えるまでに、戻ってこられたらいいんだけどな)
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