上 下
91 / 153
七章

11、独り占めはできない

しおりを挟む
 隣の部屋の扉がパタンと閉じる音を聞いて、シャールーズは肩を落とした。
 背中は、自室の扉につけたままだ。

(なにを落ち込んでんだよ。ノックされなかったことか? 自分から閉じておいて、無理に扉をこじ開けられたかったのか? 馬鹿か、俺は)

 分かっている。ラウルを蒼氷のダイヤモンドに戻さぬためには、アフタルとの契約が一番であることを。
 
 実際、シャールーズが不在の時に、アフタルはラウルをうまく使いこなしていた。
 むしろ気分次第で命令を選ぶシャールーズよりは、ラウルの方がしもべとしてはふさわしいだろう。

(だが、本当にそれでいいのか?)

 ラウルは王たる者の証だ。アフタルがラウルを持つには、あまりにも荷が重すぎやしないか?
 今後、アフタルが王家の争いに巻き込まれてしまうのではないか?

「……なんて、言えるかよ。王女に向かって」

 危険と無縁ではいられない王家の人間だからこそ、精霊のまもりが必要なのに。
 何も背負う物のない、おとなしいだけの女性に、精霊が付き従うはずがないのだから。

「にしても、契約解除とか一方的だよな」

 ティルダードにちゃんと確認した方がいいに違いない。

「一度、王宮へ戻ってみるか。ラウルがついていてくれるなら、アフタルも問題ないだろうし」

 その時、コンコンと扉がノックされた。
 せっかちなノックの音は、アフタルではない。扉を開くと、そこに立っていたのはラウルだった。

「よぉ」
「アフタルさまの元にいるとばかり、思っていましたが」
「まぁ、主を独り占めするわけにもいかなくなったからな」

 シャールーズの言葉に、ラウルが片方の眉を上げる。

「まだ姫さまからは、お返事をいただいておりませんが」
「アフタルに拒否する権利はねぇだろ」

 お前はそれだけ価値ある存在なんだからな……と言いそうになって、やめた。

 まるでひがんでいるみたいで、みっともない。男の嫉妬なんて醜いものだ。

 ラウルを部屋に入れ、椅子に座らせる。
 自分の部屋だと言われても、使っていないのでどこに何があるのか分からない。

 アフタルの部屋ほどの華やいだ雰囲気がないのは、装飾が少ないからなのか、それとも単に自分自身がこの部屋に興味がないからなのか。

「で、俺に何の用だ?」
「過去視につきあっていただきたくて」

 シャールーズと向かい合わせる形で、椅子に腰を下ろしたラウルが身を乗りだしてくる。

「そりゃ、構わねぇけど」

 ラウルは目を丸くした後に「ふっ」と小さく笑った。
 今にも消えてしまいそうな、儚げな姿だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

待ち遠しかった卒業パーティー

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。 しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。 それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

処理中です...