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七章
11、独り占めはできない
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隣の部屋の扉がパタンと閉じる音を聞いて、シャールーズは肩を落とした。
背中は、自室の扉につけたままだ。
(なにを落ち込んでんだよ。ノックされなかったことか? 自分から閉じておいて、無理に扉をこじ開けられたかったのか? 馬鹿か、俺は)
分かっている。ラウルを蒼氷のダイヤモンドに戻さぬためには、アフタルとの契約が一番であることを。
実際、シャールーズが不在の時に、アフタルはラウルをうまく使いこなしていた。
むしろ気分次第で命令を選ぶシャールーズよりは、ラウルの方が僕としてはふさわしいだろう。
(だが、本当にそれでいいのか?)
ラウルは王たる者の証だ。アフタルがラウルを持つには、あまりにも荷が重すぎやしないか?
今後、アフタルが王家の争いに巻き込まれてしまうのではないか?
「……なんて、言えるかよ。王女に向かって」
危険と無縁ではいられない王家の人間だからこそ、精霊の護りが必要なのに。
何も背負う物のない、おとなしいだけの女性に、精霊が付き従うはずがないのだから。
「にしても、契約解除とか一方的だよな」
ティルダードにちゃんと確認した方がいいに違いない。
「一度、王宮へ戻ってみるか。ラウルがついていてくれるなら、アフタルも問題ないだろうし」
その時、コンコンと扉がノックされた。
せっかちなノックの音は、アフタルではない。扉を開くと、そこに立っていたのはラウルだった。
「よぉ」
「アフタルさまの元にいるとばかり、思っていましたが」
「まぁ、主を独り占めするわけにもいかなくなったからな」
シャールーズの言葉に、ラウルが片方の眉を上げる。
「まだ姫さまからは、お返事をいただいておりませんが」
「アフタルに拒否する権利はねぇだろ」
お前はそれだけ価値ある存在なんだからな……と言いそうになって、やめた。
まるで僻んでいるみたいで、みっともない。男の嫉妬なんて醜いものだ。
ラウルを部屋に入れ、椅子に座らせる。
自分の部屋だと言われても、使っていないのでどこに何があるのか分からない。
アフタルの部屋ほどの華やいだ雰囲気がないのは、装飾が少ないからなのか、それとも単に自分自身がこの部屋に興味がないからなのか。
「で、俺に何の用だ?」
「過去視につきあっていただきたくて」
シャールーズと向かい合わせる形で、椅子に腰を下ろしたラウルが身を乗りだしてくる。
「そりゃ、構わねぇけど」
ラウルは目を丸くした後に「ふっ」と小さく笑った。
今にも消えてしまいそうな、儚げな姿だ。
背中は、自室の扉につけたままだ。
(なにを落ち込んでんだよ。ノックされなかったことか? 自分から閉じておいて、無理に扉をこじ開けられたかったのか? 馬鹿か、俺は)
分かっている。ラウルを蒼氷のダイヤモンドに戻さぬためには、アフタルとの契約が一番であることを。
実際、シャールーズが不在の時に、アフタルはラウルをうまく使いこなしていた。
むしろ気分次第で命令を選ぶシャールーズよりは、ラウルの方が僕としてはふさわしいだろう。
(だが、本当にそれでいいのか?)
ラウルは王たる者の証だ。アフタルがラウルを持つには、あまりにも荷が重すぎやしないか?
今後、アフタルが王家の争いに巻き込まれてしまうのではないか?
「……なんて、言えるかよ。王女に向かって」
危険と無縁ではいられない王家の人間だからこそ、精霊の護りが必要なのに。
何も背負う物のない、おとなしいだけの女性に、精霊が付き従うはずがないのだから。
「にしても、契約解除とか一方的だよな」
ティルダードにちゃんと確認した方がいいに違いない。
「一度、王宮へ戻ってみるか。ラウルがついていてくれるなら、アフタルも問題ないだろうし」
その時、コンコンと扉がノックされた。
せっかちなノックの音は、アフタルではない。扉を開くと、そこに立っていたのはラウルだった。
「よぉ」
「アフタルさまの元にいるとばかり、思っていましたが」
「まぁ、主を独り占めするわけにもいかなくなったからな」
シャールーズの言葉に、ラウルが片方の眉を上げる。
「まだ姫さまからは、お返事をいただいておりませんが」
「アフタルに拒否する権利はねぇだろ」
お前はそれだけ価値ある存在なんだからな……と言いそうになって、やめた。
まるで僻んでいるみたいで、みっともない。男の嫉妬なんて醜いものだ。
ラウルを部屋に入れ、椅子に座らせる。
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アフタルの部屋ほどの華やいだ雰囲気がないのは、装飾が少ないからなのか、それとも単に自分自身がこの部屋に興味がないからなのか。
「で、俺に何の用だ?」
「過去視につきあっていただきたくて」
シャールーズと向かい合わせる形で、椅子に腰を下ろしたラウルが身を乗りだしてくる。
「そりゃ、構わねぇけど」
ラウルは目を丸くした後に「ふっ」と小さく笑った。
今にも消えてしまいそうな、儚げな姿だ。
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