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五章

15、さよなら、おばさん

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 商船は隣の島に向かったが、避難民を受け入れる余裕はないと拒否された。

 最後に見たシンハは、不気味な赤さと黒さに包まれていた。
 溶岩流が海まで達し、大量の水蒸気がもうもうと上がっている。
 空は噴煙で暗く、激しい雷が故郷の島を襲っている。

 たった一人で残った天の女主人。
 もうダメだ。我慢なんてできない。

「いやだー! おばさんっ!」
「うわぁぁぁぁん!」

 シャールーズとラウルは慟哭しながら、シンハをいつまでも見つめていた。
 水平線の向こうに故郷が消え、空の噴煙が見えなくなるまで。
 ラウルは泣きじゃくり、息すらもまともにできない状態だった。

(俺はこいつよりも、お兄ちゃんだから。しっかりしないといけないんだ)

 嗚咽するラウルの背中を抱きしめ、頭を撫でてやる。

「泣き虫ラウル。泣き止めよ。俺がずっと一緒にいてやるから」

 シャールーズの言葉に反応して、小さい手がきゅっと服を掴んでくる。
 そして疲れ果てた二人は、人の姿を保てなくなった。

 隣の島が避難民を受け入れずに、また別の島、シンハラに向かったこと。そして同時期、サラーマ王家も、大国カシアの侵略を阻止すべく対応に追われていたこと。
 混乱を極める事態の中、人々は宝石に心を寄せる余裕など失っていた。

 かろうじて貴重な蒼氷のダイヤモンド、鮮やかな青のサファーリン、とりどりの色を含んだ緑のコーネルピンは、王家へと納められたが。
 地味な色合いのシンハライトだけは、キラド家が保管することとなった。

 ◇◇◇

「約束の地で、俺たちの主が待っている……か」

 懐かしく苦しい思いにとらわれていたシャールーズは、腕の中の毛布を眺めた。
 自分の体温が低いせいか、いつまで経っても毛布は温まらない。

「アフタル……」

 その名を呟くだけで、胸の奥が絞られたような心地になる。
 これが好きという気持ちなのだろうか。それとも主を大切に思う感情なのだろうか。
 尋ねたいおばさんは、もういない。

「おばさん。いつか、俺の主を紹介するから。だから……」

 生き延びていてくれ、というのは女神に対して正しいのかどうか、シャールーズには分からなかった。
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