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五章

11、手のかかるアイスブルー

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「まさか、あいつ。山に行ったのか」

 シャールーズは血の気が引いた。
 嘘だろ。なんでそんな真似をするんだよ。それもよりによって、今日かよ。

「お、俺……俺、行ってくる」
「待て。シャールーズ。そなたまで噴火に巻き込まれるぞ」
「でも、放っておけねぇよ。あいつ、俺のせいで山に」

 立っているだけで膝ががくがくと震える。
 自分の何気ない一言が、まさかラウルを追い込むなんて。

 シャールーズは神殿を飛び出した。
 神殿近くは草も木も多いけれど、山を登ると辺りはごつごつとした赤茶けた岩ばかりになる。
 見上げる空には、灰色の噴煙がそびえ立って見える。

 また噴火の音が聞こえた。

「うわっ」

 激しい風にあおられて、シャールーズは地面に這いつくばった。
 バラバラと降ってくるのは噴石だ。かなり大きな石もある。それらは地面にめり込んだり、山を転がったりしている。

「ちくしょう。大丈夫かよ、あいつ」

 硫黄のにおいは濃厚で、息苦しくなる。

「おい、ラウル! いるなら返事しろ」

 喉が痛くなるほどに大声で叫びながら、シャールーズは進んだ。

「……いるよ、ここに」

 かすれた声が、かろうじて耳に届いた。
 見れば、岩の陰に縮こまって隠れるラウルの姿があった。

「なにやってんだよ、お前!」

 シャールーズは急いでラウルの元へと走った。

「う、うう、うわああん」

 盛大に涙を流しながら、ラウルが岩から飛び出してくる。
 その時、暗い影がラウルの姿を隠した。岩のように大きな石が、空から降ってくる。

「バカ! 隠れてろ」

 泣きながらしがみついてきたラウルを、シャールーズはしっかりと抱きしめた。
 片手を上げて、意識を集中する。

 二人の周囲をシンハライトの結界が包んだ。
 深い琥珀色に閉ざされた空間。けれどそれも一瞬だった。
 巨大な岩がぶつかり、結界にひびが入る。


「次の噴火が来る前に、山を下りるんだ」
「シャールーズは?」
「俺が力を抜いたら、二人とも岩に潰されちまうだろ」
「やだっ!」
「抱きつくな。男なら泣くな。俺もすぐに山を下りるから」

 そう嘘をつかないと、ラウルは納得しそうになかった。
 いつまで力が持つか分からない。ここで二人とも潰されるわけにはいかないのだ。

(そんなことになったら、おばさんが悲しむもんな)

 ぐずっているラウルの背中を、思いっきり蹴とばす。
 うわぁぁぁん、と泣き叫びながら、ラウルは走って行った。

(これでいいんだ。あいつはいい石だから、俺みたいに地味じゃねぇから。きっと素晴らしい主に迎えられるさ)

 ああ、でも主とやらに会ってみたかった。
 自分の命に代えても相手を守りたいと思う、それほどの深い心。それってどんなだろう。
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