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二章
2、色気をふりまかないでください
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「さっきは抱き上げても平気だっただろ」
「い、今は非常事態ではありませんっ」
アフタルは慌てて立ち上がろうとしたけれど。シャールーズに強い力で封じられ、身動きが取れない。
「細かいことだ。気にするな」
「気にします。だって嫁入り前なんですよ」
「振られたところだろ。それに次の相手も決まってねぇ」
「そういうことでは……」
「俺にしておけよ。主従の関係だけじゃなく」
耳元で囁かれて、アフタルは顔を真っ赤にした。
「……離してください」
「いやだね」
初恋もまだなのに。こんなの、恥ずかしすぎる。
「俺のことが嫌いなら、男女別の大部屋があったろ。そっちを選んだはずだ」
「一人きりになるのが、怖かったんです」
「なるほど。見知らぬ女性と一緒にいるよりも、俺と同室の方が安心ってわけだな。認めてもらえて光栄だな」
「……うっ」
間違いではない。
アフタルは両手で顔を覆った。けれど強い力で、アフタルの手は簡単に引きはがされた。
「顔、真っ赤だぞ」
「見ないでください」
「見せろよ」
「……どうして、あなたが命令するんですか? わたくしのことを主と言ったじゃないですか」
「じゃあ、アフタルが命令してみろよ」
唇をきゅっと引き結ぶと、アフタルはシャールーズを睨みつけた。
「手を離しなさい」
確かにそう告げたのに、シャールーズはアフタルの頬にくちづけた。
そよ風が撫でるように、そっと。
「なっ、なっ……!」
もう言葉にもならない。
「いやー、俺の耳には『叩かれた痕が痛いから、キスしてください』って聞こえたぜ」
「言ってません。絶対に言ってません」
「心の声」
にやりと笑うと、シャールーズはアフタルの胸元を拳で軽く叩いた。まるでノックするように。
「淫らです」
「そりゃどうも。別にこれくらい、どうってことねぇけどな」
「褒めてません。罵ってるんです!」
「そんな愛らしい声で罵られたら、ぞくぞくするな」
変態だ。この精霊は変態の殿方の分類だ。
「まぁ、それは冗談として。文句を言うだけの気力があるんだ。よかったな。心配してたんだぜ」
「え?」
アフタルは驚いてシャールーズを見上げた。
琥珀色の瞳は、優しく細められている。
(わたくしを元気づけようとして?)
いやいや、それは考えすぎだろう。
シャールーズの長い指が、アフタルの金の髪を弄んでいる。
「柔らかいな、アフタルは。髪も体も」
「だから、そういうことを言わないでください」
「命令か?」
「命令です」
「却下だ」
だから、どうしてそうなるのか。アフタルは肩を落とした。
「い、今は非常事態ではありませんっ」
アフタルは慌てて立ち上がろうとしたけれど。シャールーズに強い力で封じられ、身動きが取れない。
「細かいことだ。気にするな」
「気にします。だって嫁入り前なんですよ」
「振られたところだろ。それに次の相手も決まってねぇ」
「そういうことでは……」
「俺にしておけよ。主従の関係だけじゃなく」
耳元で囁かれて、アフタルは顔を真っ赤にした。
「……離してください」
「いやだね」
初恋もまだなのに。こんなの、恥ずかしすぎる。
「俺のことが嫌いなら、男女別の大部屋があったろ。そっちを選んだはずだ」
「一人きりになるのが、怖かったんです」
「なるほど。見知らぬ女性と一緒にいるよりも、俺と同室の方が安心ってわけだな。認めてもらえて光栄だな」
「……うっ」
間違いではない。
アフタルは両手で顔を覆った。けれど強い力で、アフタルの手は簡単に引きはがされた。
「顔、真っ赤だぞ」
「見ないでください」
「見せろよ」
「……どうして、あなたが命令するんですか? わたくしのことを主と言ったじゃないですか」
「じゃあ、アフタルが命令してみろよ」
唇をきゅっと引き結ぶと、アフタルはシャールーズを睨みつけた。
「手を離しなさい」
確かにそう告げたのに、シャールーズはアフタルの頬にくちづけた。
そよ風が撫でるように、そっと。
「なっ、なっ……!」
もう言葉にもならない。
「いやー、俺の耳には『叩かれた痕が痛いから、キスしてください』って聞こえたぜ」
「言ってません。絶対に言ってません」
「心の声」
にやりと笑うと、シャールーズはアフタルの胸元を拳で軽く叩いた。まるでノックするように。
「淫らです」
「そりゃどうも。別にこれくらい、どうってことねぇけどな」
「褒めてません。罵ってるんです!」
「そんな愛らしい声で罵られたら、ぞくぞくするな」
変態だ。この精霊は変態の殿方の分類だ。
「まぁ、それは冗談として。文句を言うだけの気力があるんだ。よかったな。心配してたんだぜ」
「え?」
アフタルは驚いてシャールーズを見上げた。
琥珀色の瞳は、優しく細められている。
(わたくしを元気づけようとして?)
いやいや、それは考えすぎだろう。
シャールーズの長い指が、アフタルの金の髪を弄んでいる。
「柔らかいな、アフタルは。髪も体も」
「だから、そういうことを言わないでください」
「命令か?」
「命令です」
「却下だ」
だから、どうしてそうなるのか。アフタルは肩を落とした。
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